第二回 「セックスの世界観」

こちらの連載は、2011年11月から2012年7月まで以下のサイト(http://vobo.jp/onaho-rusenki01.html)に掲載されたテキストの第二期になります。第一期を踏まえた上の言説になりますので、上記、第一期をお読みの上読み進めることをお勧めします。

 

 

■ まんこにトレーサビリティを

世の中には二種類の人間がいる。オナホの価値がわからない奴と、生身の女の危険性がわからない奴だ。

セックスとは、他人の身体を「使わせてもらう」行為にほかならない。身体はもっとも根源的な自分の持ちもので、不可侵であるべきはずだ。その牙城をなんとか崩して侵入することがコミュニケーションであり、オナニーにない快楽なのだろう。

ではどうやって崩すか?

男からしても、誰にでもやらせてくれる出所のわからないまんこは不潔と感じるはず。肉便器とはよく言ったもので、駅のトイレ、他人の汚した洋式便器にぺったりと尻を付けられるか? もっとライトな喩えだと、電車で他人が立った直後の座 席のケツ体温を許せるか? あまり親しくない会社の同僚が持ってきた手作りの料理を食えるか? みたいなこと。

何の躊躇もなくYESと答える人は、貶すつもりもないけれど、ワタシはそのスカトロ感に抵抗がある。

女性の立場とて同じだろう。相手の完全な把握など現実には不可能。薄汚いチンポの危険を我慢させるための道具としてカネが使われるとか、フザケンナってなもんだ。

出先での便意の場合は、仕方なく、せめて衛生状態がマシそうな公衆トイレを 探す。

でも、性欲は複雑だ。男は自分の溜まり具合によらず、ものすごく魅力的な女性が現れたら、たとえ不治の性病をうつされて死んでも本望だ、と理性を吹っ飛ばされてしまうことすらある。病気に限らず、美人局の危険でもそうだ。

逆を言えば、女性は男が想像する危険をはるかに上回る容姿に擬態することで、生殖を試みている。

セックスの原動力は「異性に対する買いかぶり」だ。買いかぶられるために、 実際は見られたもんじゃない野生の本体を、上等な売り物のように取り繕ったり、思い込んだりする。

そうして催された変性意識の肉欲でもって、安全装置を互いに解除して、いわば個体の命を一時的に殺して混ぜ合わせる。

死ぬ覚悟にまで意識が高まらねば、セックスなんてバカなことできるはずがない。二葉亭四迷もそう言っていた(ヒント : 言ってない)。

ここに個を重視する理性的立場と、種を重視する生理的立場の相容れない対立がある。

人間は、よく把握しているはずの自分の内面と、未知の要素を持つ外界の境目がはっきりしているからこそ確実な個でいられる。

わけのわからないものは怖い、と前回書いた。わからない外界から身を守る精神的な免疫機構が働いているのだ。

 

■ オナホが抜きイメージを社会化する

セキュリティを重視するなら、身元をはっきりさせる、対象を良く知ることだ。突き詰めると、疑えばきりがない人間の女性と、徹底的に調べれば成分のはっきりわかるオナホのどちらが望ましいかである。自分の胸に手を当てて聞いてみるがいい。

オナホはほとんどが水素と炭素。しかも連絡先を明記した法人が、法令に基づ いた安全規格に沿った成分だと謳っている。オナホは嘘をついたり、ヤクザの愛人だったり、長い潜伏期間のある性病に感染したりしない。そういう設定で遊びたいならお望みのままだが。

知は力だ。わからないことは学び、内面を拡張していけば良い。メーカーが信用できないなら、化学を学んで自分でオナホを作ればいい。究極的には嫁を自ら作り出すことで、外部からの嫁を不要にする方向だ。死ぬ覚悟をするよりマシだとは思わないか?

一方、オナホに抵抗を感じる男性も未だ多い。彼らには宗教にも似た女性器至上主義があって、オナホの方が未知の怖いものと捉えているように見える。

オナホ普及を阻む要因のひとつは「生身の女性の代用品を使ってしまう自分への嫌悪・男としての罪悪感」で、TENGAはここを崩すことに重点を置いた。しかしそれが社会的風潮ではなく宗教ならば、メーカーが流行を仕掛けたくらいではおそらく変わらない。

人類の増殖は、彼らの存在にかかっている。

かくして嫁イメージを重視する勢力と生身の女性を求める勢力は分離され、オナホユーザー同士のコミュニティで嫁イメージが膨らんでいく。つまり、挿入したくなるキャラクターの創造である。

セックスの世界観を提供することは、オナホールメーカーの主要な仕事だ。

ゼロ年代後半からは有名エロ漫画家を迎えたパッケージが目立つようになり、 萌えアニメパロディものも躊躇なく行われるようになった。受け手と作り手の距離がネットにより縮まって、世界観の共有がしやすくなったためだ。

非エロの商業アニメ作品からエロ同人誌が作られるように、今やオナホは二次創作フォーマットとしても機能するようになっている。

オナホ業界はユーザーの中からクリエイティブな人を起用し支えていく、 UGC(ユーザー生成コンテンツ)の考え方が馴染む。オナホ会社の人も、Twitterなどで積極的にユーザーと交流する時代だ。

新人が同人界で知名度を上げ、オナホメーカーに売り込んでパッケージ絵師になるルートは、実はそれほど狭き門ではない。キャリアを積むための一段階とし ては大いにアリだ。

 

オナホール「Ju-C 1」(G PROJECT)は厚生労働省食品衛生法基準370号準拠をアピール

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器具田こする教授
ラブドールとオナホールのR&Dアートユニット「器具田研究所」を運営。メーカーへのアドバイスや技術協力といった説明のしにくい業務でオナニー業界の異常進化を支えている。http://www.kiguda.net/

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