第六回 「毎日ジョギングの人」

 

 

突如歯が痛くなって困った。

 

連休で歯医者さんがやってなくてまたまた困った。

 

で、連休明けに診てもらったところ虫歯ではなくバイキンが原因らしく、一連の電動系は使わずにちょっとシューと消毒スプレーみたいなのをかけただけで、あとは抗生剤をもらうだけだった。

 

だから治療が終わってもまだ痛い。

 

歯が痛いから歯医者さんに行ったというのに歯が痛いまま歯医者さんを出るのは歯じめての経験だった。

 

なんだか歯という字ばかりになったしまったがわざとそうした箇所があると言われればそう言えなくもない。

 

とにかく家に帰って抗生剤を飲む。飲んで、思った。バイキンが入ったくらいであんな激痛になってしまうのか。昔だったら体がバイキンをやっつけてくれたのに。トシだ。免疫力が枯れている。どうにかしなくてはならない。運動だ。でもジムに行ったりするのはいろいろ面倒くさい。やりたい時にやれる気軽なやつがいい。といえばジョギング。これしかない。という流れで走ることにした。

 

まずはストレッチ。これを怠って肉離れなんかやったらどうもこうもない。だから入念に、みっちりやる。既に汗。今から地下鉄でいうと二駅先まで行って戻って来るという往復3.5キロぐらいのコースを予定している。大丈夫だろうか…。途中でコケて頭強打とかになったりしないだろうか…。不安と同時に、走るの、いつ以来だっけな、と思う。思えばここ10年ぐらい歩いてばかりいた気がする。走ろうと思って良かった、危うくバイキンに冒されて死んでしまうとこだった、これで健康な体になれる、とまだ一歩も走っていないのにストレッチだけで3.5キロ走ったような気持ちになってしまう。いかんいかん、と思い直して出発した。

 

最初、200メートルぐらいでもうバテた。足が前に出て行かなくて自然と小股になっていく。周りの人が見れば、走っているというより、やけに歩くのが速いおじさん、と思うであろうことが自分でわかる。

 

そう思うと恥ずかしくなって、惨めだ、普通に歩こう、と思った時だった。前を歩いていたカップルが僕の足音に気付いて道を避けてくれたのだ。ジョギングコースを選んだのが間違いだった。僕は「毎日ジョギングの人」と思われてしまったのだ。

 

歩こうとしてたとこなので、余計なことを、と思ったけど、そこで歩いたら追い抜いて行かない僕をカップルは振り返るだろうし、ゼェゼェハァハァの顔を見られるのはそれこそ惨めだし、何よりも確実に怪しい。尾けている人になってしまう。僕はジョギングを装ったお尻マニアということになり通報されかねない。それは避けたい。精一杯の全力を出して一気に抜き去った。

 

さも「毎日ジョギングの人」のフリをして。とにかくカップルから見えなくなるまで頑張った。

 

見えなくなったらまた早歩きのおじさんに戻した。

 

ここで往路は達成した。前半を制する者は後半も制すのだ。そんな気がして見た目は歩きだけど、走る。

 

爆風だったらランナーよりも月光の方が好きだったな、なんて思い出しながら走る、走る。スタート地点が見えてきた。あと200メートルぐらい。最初にバテたところだ。そう思うと感慨深い。帰ってきたよ、と少し嬉しくなる。俄然3,5キロ完走、というか完歩してやろうという気持ちになる。けど、あっさり諦めた。靴紐が取れたからだ。

 

 

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イラスト:斉藤マリ/フロム岡ハウスhttp://abrahamarico.wix.com/0621

早坂"セロニアス"岳
ミーちゃん世代。シングル、伊藤つかさ、中山美穂、浅香唯、新田恵理、に顔射ザーメンして原田知世のポスターを抱いて寝ていた東京都は青梅市出身の反省を忘れた永遠の16歳。ティッシュというのはなく、王さんが描かれたジャイアンツのハンケチで精液を拭っていたからわりとモノは大事。ちなみにイルカで発射したこともあり。

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