第十五話
『多々良書店』は、地方の街道沿いによく見掛けるような、アダルト書店の類の店だった。
チェーン展開しているような大型の店ではない。
入ってすぐ左手のエリアに、数人の客が集まっていた。
女装子が2人に、純男らしき男が4人。
女装子の1人は、肌は白いが太っていて、『ミスト』にいたら、決っしてモテる部類ではない。
もう1人の女装子は、肩幅が広くて長身。
女装していても40歳は優に超えていることが分かる。
4人の男たちの視線は、一気にゆきに集まってきた。
スカートから露出している脚や、パットで膨らませてある胸の辺りに絡みついた視線は、やがて、ニーハイソックスとスカートの間の「絶対領域」に相当な時間滞在した。
「コーちゃん、すっごい美人じゃない、そのお嬢さん」
女装子の1人が、平松の兄であろう男に向かって言った。
そう言えば、男の名前を聞いていなかったなと、ゆきは思った。
「コーちゃん…」
ゆきは、頭の中で復唱した。
編集長の平松の名前は、宏治(こうじ)だ。もしかしたら、平松の兄は、弟の名前から、ニックネームにしているのかも知れない。
「こちら、ゆきさん。東京から来ているんです。ちょっとしたことで知り合ったので、今日、付き合ってもらったんです」
平松の兄らしき男は、誇らし気に、先客たちにゆきを紹介していった。
それから30分が経った。
イベントと聞いていたが、司会がいるわけでも、見せ物があるわけでもな い。
ただ、アダルト書店に、女装子と、女装子好きの男が集まるだけのイベントかも知れない。
初対面の純男2人は、ゆきの両側に立って話しをしながら、ゆきの手をそれぞれが握っていた。
その時、入口のドアが開き、前頭部の禿げた50絡みの男が、ミニスカートに白いロングブーツ姿の若い女を連れて入ってきた。
レベルの高い女装子か、ニューハーフかも知れない。
ゆきは、それまでにいた2人の女装子には間違いなく「勝った」と思っていたが、今入ってきた女には、到底敵わないと即座に思った。
「あっ、苺香ちゃん」
平松の兄だろう男が、その美人に声を掛けた。
女優の山本美月にも似たその女は、
「コーちゃん、ご無沙汰してます」
と、にこやかに返事をした。
「こちら、苺香さん。苺の香りと書いてマイカと読むんです。先生の彼女の純女さんです」
平松兄は、そうゆきに説明すると、
「こちらは、東京から遊びに来ている女装子のゆきさんです」
と、その美人と、禿げた男にゆきを紹介した。
「じゃあ、今日は、ゆきさんお借りしていっていいかな」
先生と呼ばれていた禿げた男は、平松兄に尋ねた。
そして、ゆきの両隣にいた2人の純男に、
「ペプシさんと、ノボルさんも、よかったらどうぞ」
と、言ったのだった。
何のことか分からないうちに、ゆきは、禿げた男と、その彼女である美人、それに2人の純男と、『多々良書店』を出ることになった。
平松の兄だと思われる男は、
「ゆきさん、またお会いできることを楽しみにしています」
と、他人事のように、ゆきが店から出て行くのを見送った。
その後、『多々良書店』に残っていた女装子や、平松の兄を含めた純男が、何をしたのかは、ゆきは知らない。
ゆきは、AMGのベンツの助手席に乗せられていた。後部座席の中央には、苺香が、その両脇には、ペプシと、ノボルと呼ばれていた、30代後半から40歳くらいに見える2人の純男が座っていた。
「一体どこに行くんですか」
そう聞くのは当たり前の権利だが、ゆきは声に出せない。
ゆきは、ベンツの窓越しに、いつまでもついてくる月を眺めながら、これから何をするのかを、禿げた男が話してくれるのを待った。
「ゆきさんって呼んでいいのかな。いきなりで驚いているかも知れないけ ど、私は医者だから、決っして無茶なことはしない。だから安心して楽しんでくれ。後ろにいる苺香は、うちのナース。まあ、私の奴隷でもあるのだ が…」
平松の兄らしき男が、目の前の禿げた男のことを「先生」と呼んでいたの は、その男が医者だからだろう。そして、看護士が愛人というわけか。
ベンツは、ゆきの不安とは裏腹に、間もなく、ガレージ式のラブホテルの敷地に入ると、サウナ付きの特別室と書かれた部屋の駐車スペースに停まっ た。
5人で部屋に入ると、すぐにフロントから電話が掛かってきた。
受話器を取った「先生」は、馴れた口調で「5人で入りました。バスタオルなんかの追加は持って来てもらわなくて大丈夫だから」と言って、受話器を置いた。
そして、ソファーに座るゆきの方を向くと、
「ゆきさん、よかったら、うちのナースのレズの相手をしてくれないか。もちろん、それなりのお礼はさせてもらうから」
と、言った。
「まずは、いつものように、ペプシさんとノボルさんで、苺香を濡らしてやってくれ」
「先生」にそう言われた2人の純男は、そそくさと服を脱ぐと、バスルームに向かい、あっという間にバスタオルを腰に巻いた姿で戻ってきた。
ペプシという男が、ナースの唇に吸い付き、ノボルが、ナースの後方から手を伸ばし、胸とスカートの中をまさぐっていく。
ゆきは、喉がカラカラに乾いていた。
それは、極度の緊張からだった。
ナースとレズをするということは、本物の女とセックスをすることに他ならない。
男のモノはこの1年で幾つも咥えてきたが、女のカラダに触れるのは、3年半前に柏木として、新宿のヘルスに行って以来だ。
ましてや、女の膣に挿入することなど、一度の経験もなかった。
ゆきの隣りに、ペットボトルのお茶を持った「先生」が腰を下ろしてきた。
「まあ、お茶でも飲みなさい」
「先生」は、そう言うと、ジッパーを下ろし、まだ柔らかいままのイチモツを露出させ、それをゆきに握らせていった。
目の前のベッドの上では、ノボルがナースの股間に顔を埋め、顔を真っ赤にしながら、もの凄いスピードで舌を動かしている。
ナースの口は、ペプシの硬直し切ったイチモツで塞がれていた。
「先生」は、ナースに向かって、
「苺香、じゃあこっちに来て、ゆきさんのをしゃぶらせてもらいなさい」
と、言った。
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- 志井愛英
- 小説家。昭和41年生まれ。同性愛者、風俗嬢、少数民族、異端芸術家など、マイノリティを題材にした作品が多い。一部の機関誌のみでしか連載しておらず、広く一般に向けた作品は本篇が初。
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- 第二回 「セックスの世界観」
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- 第十八回 「ココナツオナホ」
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- 第二十八回 「アメリカのアイスホッケーは肉弾戦だが試合途中の氷上整備は超ミニで息抜き」
- 第二十九回 「伊勢谷友介と破局してから やっぱりエロ全開の長澤まさみ」
- 第三十回 「ザイナ・ドリディと三田佳子」
- 第一回 「私のネタ作り」
- 第二回 「外でシコる」
- 第三回 「死者でシコれるか」
- 第四回 「偽装問題」
- 第五回 「人間に生まれて」
- 第六回 「息子がシコりまくっていたら」
- 第七回 「乳を吸うのはかっこ悪い?」
- 第八回 「Facebook」
- 第九回 「女に生まれ変わったら」
- 第十回 「シャブSEX」
- 第11回 「ワールドカップ」
- 第12回 「夏場は特にお気をつけください」
- 第13回 「ここにキスして」
- 第14回 「心霊写真」
- 第15回 「抜き差しならない」
- 第16回 「マンコ」
- 第17回 「ニュース」
- 第18回 「細い脚」
- 第19回 「マン毛」
- 第20回 「娘がヤリマンだったら」
- 第二十一回 「オナニー」
- 第二十二回 「ヘヴィメタル」
- 第二十三回 「便意」
- 第二十四回 「妄想SEX」
- 第二十五回 「報道被害」
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- 第二十八回 「再生」
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