第二十一回 「コバヤシ君」

 

 

■ アウトサイダーアートとしての抱き枕

 ワタシはラブドール専門誌のライターとして、オナマシンの試作を行うかたわら、ユーザーサイドで日々行われる新たなオナニーも取材している。

 プロが企画設計し工場で生産する合理的な技術解説も大事だが、そうした上から目線よりも、内なる性欲に迫られてやらかしてしまう野生の眼光を追う方が面白い。必要は発明の母。さらに四角い車輪の再発明を引き起こすと、より面白い。

 ワタシは野生側を応援したい、と思うのだ。再発明大好き。

 2005年の春頃、マスコミは奈良県で発生した小1女児殺害事件を大きく取り上げていた。

 

p060926
殺害された小1女児
出典 : http://www.nara-np.co.jp/n_soc/041119/special.shtml

 

 児童性愛者による殺人とあって、世間の――といってもワタシの観測範囲で声のでかい偏ったネット住民の方々の――声は、理想的な悪役を得たとばかりにオモチャにしていた。ストレス解消のサンドバッグ。
 あの事件は殺人事件。起こったのは殺人にすぎない。が、周囲の反応は殺人などどうでもよくなっていた。
 オタク文化と被告を結びつけて、オタクバッシングに持ち込もうとするいつもの流れも当然に起こる。アニメが悪い、フィギュアが悪い、コミケ参加者は犯罪者集団だのと、10年前の事件なのに今も何も進歩していないのが呆れるわ。

 さてそこで暴かれた、犯人コバヤシ君のプライベート。
 彼は女児用の衣類を盗んで、抱き枕のようなダッチワイフを自作していたと報道されたのだ。
 ラブドール市場が活気づいていた頃とはいえ、児童性愛者向け、小学生以下タイプのドールは少数派。
 もし商品が殺人犯の自宅から出てきたとなればメーカーにも炎上打撃となる。
 炎上マーケティングどころではない。
 メーカーは商品で性犯罪を抑止しようとする大義名分もあるからだ。さらに言うと、口をぽっかり開けた空気式のアレは何があってもジョークで免責されるからズルい。

 実際に出てきたのは、スクール水着の中に女児下着などを詰め込んで人形にした手作りのオブジェだったらしい。
 それを受けて「なーんだ」から「もっといいものが売られているのに」まで様々な意見があった。
 ワタシは一応サブカルの雑誌で生きてきた人なので、そのスクール水着ダッチワイフは典型的なアウトサイダーアートだと解釈できた。
 教養に醸された娯楽ではなく、必要に迫られて爆誕してしまったアート。受け手完全無視の純粋さが身上である。

 でもこれ、ニュースでは文章だけなんだよね。抱き枕を人間の形で作るって大変なことで、どれだけ変な形になるのか、追試してみたくなった。
 例のラブドール専門誌「アイドロイド」に企画を出したらあっさりOK。時事ネタ枠で、やってみることになった(女児服は古着屋ルートで合法入手したものです)。

 当時、想像しうるコバヤシ式ダッチワイフとはこんなものであった。頭と手足のないトルソー型で……。

 

KOBAYASHI1
▲材料はどんなご家庭にでもある体育着、ブルマー、私服、その他クレーンゲームで取ったぬいぐるみなど、そしてスクール水着とオナホ。

KOBAYASHI2
▲私服トップスとブルマーなどをひとつかみ。等身大にするにはこの何十倍も体積が必要そうだ。

KOBAYASHI3
▲あるだけ詰め込んでもブカブカで中身がこぼれ出てしまう。

KOBAYASHI4
▲ユニクロのチェックのオタクシャツで補強。少女感が激減する。

KOBAYASHI5
▲横からオナホを差し込むと性交可能に!

KOBAYASHI6
▲枕を詰め込んで増量したらどうか?

 

 外皮となるスクール水着は、伸びる。しなやかに女体にフィットするように作られている。
 スク水の形が美しいのではない。
 着る中身の女体のおかげで美しい形になるのだ。
 スク水に詰め込めるだけ、女の子の身に付けるかわいいものすべてを詰め込んだら、かわいくなるどころか醜く膨れるだけであった。
 コバヤシ君はそれを身を以て知ったことであろう。いや実際に作らなくても想像付くけど。

 

 「いや……形の美しさじゃない。女の子の持ち物を抱きしめることが大事なんだ。だってそうだろ?
 そんな冥界からの声が聞こえた気がした。

 

 それがアウトサイダーアートなんですね!

 

 コバヤシ君は2013年2月21日に絞首刑となったそうである。

 

 

参考文献
・アイドロイドプチ vol.5, コアマガジン, 2005
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4877348484
・奈良小1女児殺害事件 – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%88%E8%89%AF%E5%B0%8F1%E5%A5%B3%E5%85%90%E6%AE%BA%E5%AE%B3%E4%BA%8B%E4%BB%B6

器具田こする教授
ラブドールとオナホールのR&Dアートユニット「器具田研究所」を運営。メーカーへのアドバイスや技術協力といった説明のしにくい業務でオナニー業界の異常進化を支えている。http://www.kiguda.net/

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