第一回 「シェール革命」

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その夜、ノースダコタのウィリンストンから日本に戻ったばかりの私は、いつものように新宿ゴールデン街のジャズバー『S』にいた。

ノースダコタの失業率は、3.2%でしかない。それが、日本の失業率、4.2%より低いことに、『S』にいた誰も驚くことはなかった。

「シェール革命」。

その日、『S』にいた、私を含めた3人の客は、この今最も有望な市場テーマに関する情報を持ち寄ってきていたのだ。

男の1人は、モサドとのパイプを持つと言われているかつての私と同じ諜報屋だ。スパイと言えばスパイだが、ジェームス・ボンドとは、似ても似つかない風貌だ。

腹の出たその男は、脂ぎった額をハンカチーフで拭うと、ブタジエンの価格を、誰が吊り上げているのか、その実名が書かれたメモを私のポケットへと忍ばせた。

合成ゴムの原料となるブタジエンは、この3ヶ月の間に、約4割も上昇している。

ブタジエンは、原油を精製したナフサからエチレンを作る時の副産物のようなものだが、シェールガスからエチレンを作るとなると、ナフサそのものができないため、ブタジエンが不足する。

安価なシェールガスからエチレンを作るコストは、ナフサからエチレンを作るコストの10分の1と言われ、このままシェール革命が進んでいけば、ブタジエンが供給不足になることは確実視されていた。

それを見越して、早くもブタジエンに投機マネーが流入しているのだ。

私が、ノースダコタで調査したのは、シェールガスの採掘現場で、どこの会社の製品が実際に使われているかだった。

採掘したシェール層の割れ目に充填するフラッグサンドを製造する装置を作る新東工業(6339)、採掘現場で使う、大型発電機を手掛けるデンヨー(6517)の2銘柄は、すでにその場にいたもう1人の男が運用する、「シェール革命ファンド」に組み入れられていた。

その日、太り気味の諜報屋は、そのファンドマネージャーに、昭和電工(4004)を組み入れるよう進言した。

昭和電工は、アセトアルデヒトとエタノールを反応させてブタジエンを作る技術を確立し、2016年から生産を始めるという。

2月15日に、昭和電工を125円で、すでに大量に仕込んでいた私は、腹の中で、そのデブ男のことを「のろまな奴だ」と、笑った。

今まさに、株式市場では、「シェール革命」をテーマにした物色が始まったばかりだ。

次の日、私は、シェールガスが大量供給されることで、天然ガス価格が下がり、天然ガスを武器に進めてきた欧州戦略の軌道修正を迫られているロシアの動きを探るため、クラスノヤルスク北部のガス田都市バンコールへ飛んだ。

 

松本K
元諜報員。米諜報支援企業L3コミュニケーションの関連組織で訓練を受けたとされる。現在は、金融資産1000万ドル以上の投資家に対する情報提供を生業にする一方で、自身もマーケットに参加している。テルアビブ生まれでテヘラン在住、中国人民銀行の周小川とパイプを持つと言われているが、実態に関しては不明な部分が多い。かつて、雑誌『BUBKA』で連載記事を書いていたが、国際金融資本からの圧力で連載休止に追い込まれたという噂。

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