第十九回 「オナーパンツ」

 

 

■ 成人タイプのドールを相手に男優を  時代は光る2004年。

 

 本連載で度々登場する名物編集長Kは、念願のラブドール専門誌を始めてすでに4年が経過していた。

 生身の女性が一切出ない系エロ本界にあって、エロマンガ、エロゲの次に位置づけられたラブドール。当時のKはたしかに最先端を走っていた。

 各メーカーの協力を得てドールグラビアを撮ったり、カリスマユーザーに購入ガイドを書いてもらったり。あの頃、ラブドールをめぐる経済は沸いていた。他社から競合のラブドール誌が出るほどだから、相当に狂っていたと言ってよい。

 専門誌で扱われるのは、主にオトナ体型のシリコーン製等身大人形だ。

 ドールとホールの話題とはいえ、ワタシの守備範囲は少女愛。たとえば新作ドールのおっぱいの揉み心地を記事にするとしても、ワタシはそもそも巨乳に興味がないといった具合で、微妙に当事者意識が持てないというか、居場所がズレていた。

 しかし、だからこそ、客観的な位置でシゴトとして雑誌に参加することができたともいえる。ワタシは依頼とあればグラビアページの撮影に同行し、普通にドール相手の男優役もこなした。

 さらには人工性器の連載記事である。

 オトナタイプであっても、陰毛を備えたドールは少ない。そのあたりは第16回に書いた無毛オナホと同じ事情だ。オトナタイプが好きなユーザーも、陰毛にかぎっては、手間をかけてまで植毛すべきとは思っていない。必要でないからパイパンのまま商品化され、わざわざパイパンと訴求することもない。当たり前のパイパンなのだ。

 オナホールの仕事なら、ワタシも年齢設定の壁を超えて取り組むことができる。

 メーカーから中立の立場でオナホールや性器具の気持ちよさを初心者にわかりやすく伝え、今後の可能性を探るという行為は、その当時はまだ仕事として認知されていなかった。

 AV男優がオナホを試して使用感を説明したとしても、ホンモノのまんこありきのハナシになる。まんことの比較で語られても、そのまんこを知らない読者には伝わらない。

 ホンモノまんこはオナホの説明に使うものではない。オナホ作りの参考にするものなのだ。

 ちなみに器具田研究所は、現在もオナホ作りの参考になるまんこを募集しております(参考にならないまんこは要りません)。

 

■ オナーパンツ登場

 さて、人工性器の未来をどう提示しようか。ページを与えられたワタシは、友人からこんな相談を受けていたことを思い出した。

 「毎朝忙しいのに性欲処理しなくちゃならない。通勤電車内とかでサクッと気付かれずに抜ければイイのに」

 誰もが思うアイディアではある。

 だが待てよ、外で気付かれずに抜けるなら、街行くエロい格好の女性をオカズにもできるじゃないか?  ネタ出し会議でそう伝えると、K編集長はたいそう喜び「じゃあ発射した精液はどこに行くの?」「手を使ったらバレるでしょ、どうやってちんちんをしごくの?」とネタを膨らませる。ワタシはそれに大喜利のように解決策を当てはめていく。

 外出先で使え、衣服の中に仕込む器具で、股間に手をやらずにちんちんがしごける未来人の必須アイテム。もうワタシの目には未来しか見えていなかった。

 こうして完成したのが後に伝説となる「オナーパンツ」であった。もちろん往年の包茎矯正器具、ビガーパンツのもじりである。

 英語表記ではHonorPants。オナー——つまり社会的面目——を保ったままオナれるという意味にした。

 

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 股間にセットしたミニオナホから、お腹、袖を経由して左右の手元までワイヤーが伸びている。ワイヤーを引っぱることでオナホが駆動され、自慰ができるシステムである。精液の始末は大人用オムツで吸収させることにした。

 左右にワイヤーを引っぱる動作は、ダンスか何かの運動をしているようにしか見えない。まるで、ビリーズブートキャンプ。まさかオナニーしているとはお釈迦様でも気が付くめえ。

 ワイヤーの動きに合わせて股間がモゾモゾ動くけど、ほら、屈んだポーズでそんなの関係ねえ。

 というかですね、そもそもフル勃起したちんちんのサイズを考えてほしいわけですよ。そんなモノをズボンの中で暴れさせるわけだから……ネ? もう子供じゃないんだから。

 編集部。

 Kは「ワンツー♪ワンツー♪」とオナーパンツ体操を楽しそうにやっている。手を触れていないのに、オナニーしてることがバレバレだ。

 

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 編集長はソレでいいんか…そうかー……∬゜ΘωΘÅ

 オナーパンツの発表後、実用性の無さとは裏腹に、そのコンセプトは大注目され、マンガや週刊誌から取材が舞い込む事態となった。

 本来、ジョークグッズというのは言い逃れの口実ではなく、こういうモノこそを指すのだ。器具田研究所はソレを身を以て示しただけなのだ。

 ブートキャンプの流行はオナーパンツの翌年である。ブートキャンプは妖怪ウォッチが再発掘してネタにしているが、今になってみるとオナーズブートキャンプなんて一過性の名前にならなくて良かったなとは思いますね。

 

参考文献

・器具田こする,『「オナーパンツ」の製作』, pp.96-99, アイドロイドプチ vol.2, コアマガジン,2004
 

Z

 

・小田原ドラゴン,『オナニー界のエジソン!』, pp.5-16, 小田原ドラゴンくえすと! 第2巻, 小学館, 2005

 

 2Q==

 

器具田こする教授
ラブドールとオナホールのR&Dアートユニット「器具田研究所」を運営。メーカーへのアドバイスや技術協力といった説明のしにくい業務でオナニー業界の異常進化を支えている。http://www.kiguda.net/

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