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第十二話

 

「なんで男が女の格好なんかするんですかね」

柏木は、そう有田に返答した。

「バカだな、柏木君も。それを理解するために映画見に行ったんじゃなかったのかい」

有田に、バカと言われることにはもう慣れていたから、柏木は有田の言葉に傷つくことはなかった。

それより、自分がゆきであることを、有田が全く気付いていないことにホッとした。

そのやり取りを聞いていた平松は、マグカップに入っていたブラックコーヒーをひと啜りすると、

「じゃあ、女装子の気持ちが少しは分かるまで取材してみるんだな」

と言うと、デスクの上にあったA4の紙を一枚、柏木に差し出した。

「有田さんにリストアップしてもらった、女装子関連の店だ。有田さんはゲイでもないのに全部行ったことがあるらしいぞ。やっぱりこういうのは、実践派の人からの情報を大切にしないとな」

平松の言葉の裏に、自分のことを行動できない人間だと批判している意図があることを柏木は感じた。

「クソ編集長、お前の方が女装子のこと何も知らないだろう。本当、早く死ね」

と、柏木は心の中で言葉にしながら、紙を受け取った。

黄金会館(浅草・上野・新宿)、上野特選名画座、池袋ミスト、六本木グラジオラス、新中野abc、プロパガンダ(イベント)、ゴールデン街・昭、雲雀亭、R’s、ACTRESS、JAN JUNE、びびあん、スワンの夢、マスカレードカフェ、あゆむバー、クロスドレッサー、ニュータイプ、エリザベス、J’sサロン、マル秘基地(群馬)……

そこには、発展場や女装バー、女装サロン、女装イベントなどがランダムに記されていた。

その幾つかは、柏木もゆきに変身して行ったことがある。

池袋のミストでは、有田に遭遇し、精液まで飲まされたが、まさか、六本木のグラジオラスにも、有田が足を運んでいたとは。

「これ、全部、僕が行くんですか」

柏木はわざと困惑してみせた。

平松は、

「どこでもいいから、柏木君が女装子に、モテるようなことがあったら褒めてやるよ」

と、フロアにいる他の編集部員に聞こえるように言った。

そこに書かれている、ほとんどの店やイベントは、柏木も知っていた。ただ一つ、初めて見たのは、マル秘基地という名前だった。

その夜、柏木は、いつものスーパー銭湯に寄った。

 

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瞑想サウナには、中年の男が2人入っていたが、そのうち一人は、タオルで股間を隠していない。

柏木が、その男の向かいに座り、絞ったタオルを膝の上に畳んで置くと、男は、黙って両膝を開いてきた。

柏木がこの世界を知るずっと前から、その手の男たちは、タオルで隠さないことを合図に、相手を求め合ってきたのだろう。

柏木が気付く以前にも、タオルで隠さない男たちを、大勢見ていたに違いない。

だが、その時、知らない由に、見えていなかったのだ。

柏木は、正面に座る男のイチモツを、じっと見つめてあげた。

視線を感じたそれは、悦んで大きくなり、ビクンと動いた。

柏木が、右手で皮を剥くと、男は、別のもう一人の男に見つからないように、自分のモノを握り、手を前後に動かした。

それは、この半年間に、柏木が幾度となく見てきた、すっかり見慣れた風景だった。

この瞑想サウナ以外のミストサウナや露天風呂でも、何度も見た。

どこのサウナや、スーパー銭湯でも、人目に付きにくく、薄暗い場所があれば、必ずその手の男はいるものだ。

恐らく、平松は、そんな当たり前の現実にも、まだ気付いていないのだろう。

平松のような、ゲイに対して偏見を持っている人間は、一生その現実を見ることができないかも知れない。

正面の男が、もう一人の男が早く瞑想サウナから出て行ってくれることを願っていることも柏木には分かった。

そうすれば、正面の男は、柏木の隣に座って、手を伸ばしてくる。それも、どこにでもある、珍しくないパターンだった。

その時、若い2人組の男が、噺りながら瞑想サウナに入ってきた。

正面の男は、慌ててタオルで勃起を隠すと、逃げるようにサウナから出た。

これも、柏木が幾度となく見てきた、すでに日常となっている風景だった。

自宅に帰った柏木は、パソコンで『マル秘基地』を検索した。

それは、群馬県の館林にあるDVDボックスだった。

調べてみると、群馬県にも、女装子やゲイの発展場が幾つもあり、『群馬アンダー掲示板』という、女装子やゲイの、待ち合わせサイトもあった。

群馬と言えば、平松の地元だ。

平松は、スバルの工場がある太田で、金型工場を経営する一家の次男として生まれた。

今は、長男が社長として工場を切り盛りし、平松の親は、会長として、隠居同然の生活を送っているという。

 

志井愛英
小説家。昭和41年生まれ。同性愛者、風俗嬢、少数民族、異端芸術家など、マイノリティを題材にした作品が多い。一部の機関誌のみでしか連載しておらず、広く一般に向けた作品は本篇が初。

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