第二十話

 

 

 駒込駅を降りて、山手線の線路沿いを巣鴨方面に2分も歩くと、その建物はあった。

『駒込ラドンプラザ』

 建物の入り口には、そう小さく書いてある。文字が小さいのは、一般の人が、スパと間違えて入らないようにするためだ。

 浅草の『黄金会館』や鶯谷の『三条』、上野の『一番』と並んで、『駒込ラドンプラザ』は、熟年のゲイ男性が集まる、発展場サウナとして有名だった。

 その日、平松金型工場の社長は、東京に出張に来たついでに、『駒込ラドンプラザ』に遊びに来ていた。

 平松にとっては、それが初めての来店だった。

 1階のロッカーでガウンに着替えると、2階にある浴室へ向かった。

 普通、サウナでは、ガウンの下にサウナパンツを履くが、この手の店にはサウナパンツがない。

 たいして広くもない浴室は、血色のいい初老の男たちで溢れ返っていた。

 頭髪に白いものが混じっているか、禿げて薄くなっている男しかいない。

 その中にあっては、まだ50になったばかりの平松は飛び切り若かった。

 平松の筋肉質の身体に、周囲にいた男たちの視線が絡みついた。

 平松は、それを楽しむように、立ったまま身体を洗った。

 半年前、館林のビデオボックスで、女装子の小便を飲んで以来、平松が発展場に出入りするのはこれが初めてだった。

 3階の仮眠室に行くと、床に並べられた布団の上で熟年男たちが思い思いに絡み合っていた。

 1人の男に2人の男が纏わりついて、乳首とイチモツを吸っている。70を過ぎているであろう白髪の老人は、その様子を見ながら、もう数年間も硬くなっていない自分のモノをグニャグニャと弄り回した。

 奥にある二段ベッドでは、男同士でセックスしているような吐息が聞こえたが、余りに暗くて、目が慣れてきても、人の顔がどこにあるのかは分からなかった。

 平松が、空いていた布団の上に仰向けになると、すぐに男が近寄ってき て、平松のイチモツに手を伸ばした。

 男がイチモツを口に含むのを待って、平松は、その男のイチモツに手を伸ばす。

 平松と男は、布団の上でお互いのモノを舐め合っていく。その間、2人の間には何も会話はない。

 やがて、平松は腰を引いて、男の口から自分のモノを抜くと、手振りで男に立つようにお願いし、自分は男の前に跪いて、咥え続けた。

 平松が『駒込ラドンプラザ』に来たのは、これがしたかったからだ。

 平松は、喉の奥まで男のモノを含んで息が苦しくなると、日常の出来事を全て忘れ、フワフワした気分になった。

 平松には、自分がゲイであるという自覚は全くない。

 本当に咥えたいのは、女装子のイチモツだった。ニューハーフのモノは、何だか無機質に思えて、平松の気持ちを解放してはくれない。

 女装子のモノを咥える機会を得るのは、そう簡単ではない。高田馬場の 『アルテミス』という風俗店には、女装子がいることも知っていたが、風俗に行って咥えても、平松の気分がフワフワすることは今まで一度もなかっ た。

 男は、「うわぁ、気持ちいい、もうイッちゃうよ」と、初めて言葉を放った。

 生温かい液体が、ピシャッと喉の奥に掛かった。

 平松は、指で男のイチモツを激しく扱き、自分の口の中をもっと汚してもらおうとした。

 同じ頃、新宿の女装サロンでゆきに変身した柏木が時計を見ると、針は11時45分を指していた。

 そこから歩いて京王プラザに着いたのが11時55分。

 12時になるのを、立ったままロビーで待ってからエレベーターに乗り込んだ。

 3411。

 ゆきは部屋の番号をしっかりと確認してから、ドアをトントンとノックした。

「ああ、ゆきさん。入って、入って」

 少しだけ開けられたドアから、そう手招きしたのは、全裸の「先生」だった。

 「先生」の肩越しに部屋の中を覗くと、白衣を着た若い女がいるのが目に入った。

 ゆきが部屋に入ると、「先生」はそそり立つようにして天井を向いていた自分のモノをゆきに見せつけながら、「バイアグラのお陰なんだけどね。今日は、ゆきさんと一緒にマゾの美人を犯すつもりだから」と言った。

 

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志井愛英
小説家。昭和41年生まれ。同性愛者、風俗嬢、少数民族、異端芸術家など、マイノリティを題材にした作品が多い。一部の機関誌のみでしか連載しておらず、広く一般に向けた作品は本篇が初。

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