2016-2017

 

 展の怒られは、そりゃあひどいダメージだったし身の危険も感じて迷惑してますよ。
 「怒られ」とは、炎上を自然災害とみるツイッター界隈の表現だ。謎の理屈や巨大感情で発生する自然災害。
 本稿では、そんな災害下で声かけ写真展を支える事業継続のための知見をシェアしていきたい。

 ワタシは想像力があるからね、アンチも同じくらいこっちを迷惑に感じてるんだろうなと想像できる。
 アンチの怒りは、攻撃相手に謂れのない罪悪感を植えつけてくる。良いを悪いに書き換えてくる。情念、文脈、倫理を捻じ曲げるミームの戦争だ。
 衝突はどうやっても解決できない以上、ワタシ的にはニュートラルに「オッ、衝突してるな」と受け入れるだけなんじゃよね。情熱とか根気なんか無い。
 分かり合えない相手と立ち向かうって映画によくあるけど、そんな宿命を負うほど好戦的でもヒーロー属性でもない。
 その戦争はプロレスに格下げさせてあげないとつらすぎる。

 ワタシは写真を見てもらって良い気分になって帰ってもらいたいだけなんですよ?
 それに全盛期にたくさんいた声かけ写真作家も掘り起こしたい。

***

 東京展の熱狂が落ち着いた2016年夏。
 展は「東京の次は大阪でやるのが相場と決まっている」「面白そうな催しは東京ばかりでずるい」との声で、会場が大阪というのは早い段階で設定されていた。
 「お金を出すのは今回限りで」
 世田谷ものづくり学校での第1回展(#1)主催スポンサー、(株)土のフク田氏はそう切り出した。

(#1)中年男性が女子小中学生に声をかけて撮影しただけの写真展を標榜し、行われた写真展示第1回。会期中は殊更の混乱なく円満終了したが、その後伝聞での炎上に発展。どのくらい嫌われているかはネット検索すればその痕跡が確認出来る。開催日は2016年5/4~5/8。声かけ写真展 検索

 「えー、本番は2回目からでしょう?」
 「これは単発企画。今回大成功でやりきったと考えている。2回目としてもこれを超えるインパクトは思いつかない。あとはがんばって!」
 「インパクトってアンタ……」
 非営利とはいえ、第2回につながるほどの黒字にはならなかったのもあり、スポンサーが降りたら器具田研単独で第2回の開催は資金的に無理だ。大阪だとスタッフも泊りがけになり、予算も倍はかかるだろう。

 2016年8月。
 企画に乗ってくれる大阪のギャラリーを探すも、ワタシのアーティスト人脈では見つからない。興味がないとか、理由は特にないですとかノッペリした断られ方もされた。
 断るだけでも党派性というか、思想が出てしまうからなんだろうなあ。
 大阪にも世田谷会場と似た貸し廃校があるが、回し状が送られているのか、声かけ写真展はダメだと早々に断ってきた。
 すでに大阪にまで名が轟いているのだ。知名度はすごい。

 この頃、パンチラ展やふともも写真展など異常写真展が勃興していて、それら「特殊展示会」というジャンルに乗っかってしまえば市民権を得たも同然に見えたのだが、実際は関係者の横のつながりなんかなかった。
 つながりが仮にあったとしても「声かけ展だけは別」とでもいうような空気。助け合いソーシャルは難しい。
 常識をぶっ壊す的なパンクなコンセプトのハコはあれど、声かけ写真展の話に乗ってくる支配人はいなかった。
 もうね、簡単に開催できるなら誰かがやりゃいいんだよ。
 言い換えればこの展示企画は、もはや器具田研しかできなくなっていた。

 9月頃から本格的に大阪展の企画書パワポを書く。
 展の会場は前回同様、展示される背景を重視する。展示用にあつらえたギャラリーの白壁に写真を貼っても意味がない。
 校舎の次、被写体の少女たちはどこへ行くか? 放課後の駄菓子屋をコンセプトにしよう。ギャラリーではなく、廃屋を借りよう。
 学生アーティストが個展でよくやるやつだ。

 2016年10月。
 資金集めはクラウドファンディングに頼るしかない。最大手のCampfireが一番手数料が安かった。
 ワタシは生配信やVtuberの対談に出てプロモーションもした。
 企画が知れ渡るとまたバズが起こり、ファンディング業者に電凸が殺到。集めたはずのお金が——クレジット払いだったためそもそも決済前から——なかったことにされた。
 MotionGallery、審査落ち。
 11月、ShootingStar。立ち上がったが半日で凸に遭い撤回。
 人からお金を預かるのって「重い」はずだけどな? 決済業者は根も葉もない凸で安易に撤回することがわかってきた。

 やめろと直接言ってきた人は一人もいない。ただ妨害だけが湧いてくる。
 ヘイト勢のアルファが血眼で監視していて、こちらが利用している業者を大勢のフォロワーを使って凸妨害するって寸法だ。
 準備しているだけで大手ニュースサイトが記事にして妨害する(#2)なんて、普通に考えたら典型的な誇大妄想のはずが、実際に起こっている。
 お前はそんなビッグアーティスト気取りか、と自分にツッコミが入る。

(#2)タイトルは「少女の性的搾取と批判された「声かけ写真展」、大阪で再度開催の動き」第2回を示唆した段階でHuffington Postが記事化。

 凸耐性の面からビットコインによるクラウドファンディングも検討したが、投機のオモチャであり実用には向かない。ちなみにもし当時ビットコインで投げ銭が投げられていたら、直後の仮想通貨億り人ブームで利益が大変なことになっていたはずだ。
 電子マネーによる入金受け付けも潰され、口座凍結された。
 スマホ決済とかおまえら怖くないのか。凸だけで潰されるんだぞ。こんなんでキャッシュレス社会とか無理ですよ。

 傷心というよりうんざりだ。ワタシのやる気のなさは天地を裂いた。
 しかしクラウドファンディングをすると投げ銭が実際「ある」のだ。支援者の側も可視化されてきた。

 器具田研の活動がほぼなくなっていたころ、メールが届いた。
 「ニュース見ました。私も昔、投稿雑誌に写真載せてました。今でも撮ってます」
 このカメラマン、当時のペンネームを聞くとたしかに『投稿写真』(#3)とかに載っていたような? 聞いたことある名前。さすがに「今でも撮って」いる被写体は、子供以外とのことだ。

(#3)1984年創刊、1999年廃刊。創刊当初は考友社出版発行、1991年にサン出版へ移行。アクション写真(パンチラ、胸チラ等のスナップ写真)をメインに素人投稿者からの投稿写真を掲載。芸能アイドル色を強めたことでカメラ小僧の振興に寄与した。

 ここでは「トモヨシ」の名前で参加するという。
 「大阪住みです。2回目の展示やりましょう!」
 仲間にトモヨシ氏が加わり、出会いの物語が解放された。関西は未知の世界だっただけにありがたかった。
 しかし資金集めも頓挫してるんだが?
 
 「どこにも断られるんだったら、御苗場に出してみますか?」
 トモヨシ氏が教えてくれたのは、コミケのような合同写真展。
 無審査で襖2枚ほどの壁が与えられ、自由に展示ができる。
 次回は2017年2月。会場は横浜だという。出展料もそれほど高くない。(#4)

(#4)2006年初開催、2020年10月現在でvol.27。日本最大級の参加型写真展。“自分の未来に苗を植える場所”それが「御苗場」の命名理由です。(公式サイトより)出展審査不要・誰もが参加出来ることが重要な要件です、を謳う。

 このまま何もしないよりは大阪実現までのあいだ、これを存在アピールとしよう。
 「声かけ写真展」の名前で御苗場に申し込みするとそのまま受理された。出展者用説明会にも出席して、運営から何も言われなかった。
 今までの断られ経験からすると、写真文化にとても詳しい運営が声かけ展を知らないってことはないはずだ。問題は、運営は出展者を凸から守る気概があるか……。
 アンチやヘイターに知られればどうせ妨害される。
 御苗場は写真ホビーに入れ込んでいる人のイベント。奴らとの接点は無い。本来、写真好きに見てもらうのが目的なのだから、告知は会場側公式の出展者カタログページに任せて、ツイッターでは閉幕ギリギリにタネ明かしでいいだろう。
 
 搬入設営日から大阪のトモヨシ氏も横浜入り。ブース内展示で借景がないため、額装を多めにしてよそ行きのお試し展示感を醸し出してみた。

 2017年2月23日。一日目。横浜BankART Studio NYK。
 多数の来場者、老若男女が声かけ展のブースを横切り、また、足を止めては見ていく。
 東京展の文脈を知らないニュートラルな視点だ。
 昔の写真を知る老人は現在の撮影の難しさに同意して話しかけてくれたし、海外からの来場者は「ウチの国ではそこまで警戒はされないわね」などの感想をもらった。
 写真のえらい人がブースを回ってアドバイスするという企画イベントもあった。声かけ展に対しては「日本はそういうクソなとこなんだから、できる国で勝負したほうがいいよ」とか言われ、海外展の伏線が発生する。
 個別に出展情報を告知した支援者たちも来て祝ってくれる。すべてが平和だった。
 おかしい。
 声かけ展がこんな周りに溶け込んで受け入れられているのに、じゃあ東京展の怒られはなんだったんだ? あの東京会場、世田谷ものづくり学校は謝罪文まで出しててさ、謝り損じゃないか。謝るなよ、作家を守れ。なにやってんだ。
 閉幕ギリギリに種明かしすると決めていたのに、ワタシはそこで不安になってしまった。

 二日目。
 先に会場に到着していたトモヨシ氏から「事務局まで来い、だって」と連絡が入る。
 もしかして俺、またやっちゃいました? というか反応素直だなー……。
 会場のバックヤードに設けられた御苗場事務局に行くと、事務員が「こちらが驚くほど、こんなに言うかというくらい強い口調でたくさん苦情が入っているんです」と言う。
 「知らないですよ。スタッフのみなさんも昨日展示見てたじゃないですか」
 「スポンサー企業、会場、市の方にも同じ苦情が行っているそうです」総責任者もやな仕事だ。
 「苦情が来る理由があるはずですが」
 「それだけ注目されている価値のある写真だからじゃないですか」
 「プラス思考ですね。企業の担当者がここに来ますので苦情の説明をしてください」
 「はあ」
 そんな感じでカメラメーカーの人たちが集まって、写真に写っている子供の親の了解がどうのと言ってくるんだけど、ほんとに作品見たの? 30年前の写真だぞ?
 カメラメーカーの人たちも仕方なく集められて立場上聞いているんだろうし、カメラを使って欲しい側だ。
 そこはなんとかその場を収めることができた。
 最終日三日目まで展示を継続。しかし謎の力が働き、三日目の昼で結局撤去処分となった。

 やっぱり場所の間借りは撤去リスクがでかい。
 ありもののイベント出展ではなく、イベント主催になる必要があるのだ。

御苗場会場、声かけ写真展第1.5回目(?)の様子

器具田こする教授
ラブドールとオナホールのR&Dアートユニット「器具田研究所」を運営。メーカーへのアドバイスや技術協力といった説明のしにくい業務でオナニー業界の異常進化を支えている。http://www.kiguda.net/

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