第一回 「赤羽自然観察公園」

1.私の沼

私は私の記憶の原点である沼を巡りながら、人間の意識の原点へと想いを馳せるようになった。

2.沼の定義
なにものにも縋りつくことができなくなってしまった現代に取り残された私にとって、立ち返っていく対象がかろうじてあるとすれば、それは私の意識の源である、あの沼なのだ。

まず、このコラムでは私が「沼」と呼ぶもの・呼ばないものを暫定的に定義して進んでいきたいと思う。

■沼の定義

-地表の割れ目から滲みでた水たまり
-底なしの噂が絶えない
-禁足の湿地
-民間伝承が伝わる湿地
-限りなく透明度が低く小規模な湿地
-ゆっくりと身を沈めたいと思う湿地

3.今回の沼

私をわたしたらしめる沼との邂逅を求め、日本全国の沼地に実際に足を運ばんとするものである。
現地にて撮影した写真を掲載しつつ考察を添えてみたい。

 

まず第一回目となる今回は「赤羽自然観察公園」(東京都北区)を訪れる。

 

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陸上自衛隊十条駐屯地赤羽分屯地跡地の一部を公園として整備し1999年4月1日に開園。コンセプトとして、この土地本来の自然を再現しているという。

・縄文晩期の湿地-沼地が保存されている。 (http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/water/conservation/spring_water/tokyo/place_14.html)

・コナラは樹液を出し、カナブンが飛び交っている。 (http://www.geocities.jp/riskretention2004/sub_jumo/sub/tokyo.html)

・公園内の池にしてはかなり不気味。周囲は柵で囲まれている。(http://homepage3.nifty.com/kounomura/retro/kitaku/akabane.html)

といったようなレポートがインターネットのサイトに散見され、「縄文の沼地」「カナブン」「不気味」といったキイワードが私の気を引いたのである。

「自然観察公園」という白々しい名前のその背後に、なにかしらざわつく気配の漂う地といった印象を持った。
それは、「谷戸地形」(「やとちけい」とは、丘陵地が浸食されて形成された谷状の地形である)といった、この土地本来の窪んだ地形からくる気配なのかもしれない。

 

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公園でキイキイはしゃぐ子供たちの姿ではなく、うなだれた老人がひっそりとした沼に引きづりこまれていってしまう、といったような風景を思い浮かべた。その老人ははたして私なのであろうか。

4.探訪する

「JR赤羽駅」は私の住む新宿から電車で約15分ほど。その西口からさらに徒歩13分のところに「赤羽自然観察公園」はある。

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▲西門。まっすぐに進むと左手に災害時の飲み水確保のため、深さが206mもある井戸が設置されているという(見た目には分からない)。

「東京の名湧水57選」に選ばれたという「湧水」を利用して、湿地や沼や小川、水田といった谷戸本来の景観を形づくったのだという。はたして頭をよぎった嫌な予感は的中した。小雨がパラつくこれとない沼日和だというのに、そこにあったのは名湧水を称えた「池」であった。

実際に足を運んで目で見なければ分からない情報の恐ろしさを改めて感じた。

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▲池を柵が囲み、整備された環境。とたんに興奮が萎んでいく。人間の垂れ流す汚水で沼地が形成されていれば良かったのに。

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▲「水源はどこにありますか?」と管理棟の管理人に問うと、ここを真っ直ぐいってその突き当たりを左の上へ、との回答を得た。多目的広場の3分の1を桜が並ぶ。

 

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▲縄文晩期の湿地-沼地と思われる場所。人の手が入ったような印象はぬぐえないものの、雰囲気にはすばらしいものがあった。水はもっとどんよりと濁り、ズブズブと足をとられそうなドロ地があり、さらにそのドロが深ければ良かったのに。

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▲東門へと向かう坂道。すり鉢状の公園を囲むようにして、マンションが並ぶ。坂が多い地ということもあり辺りを見渡すと、一瞬、平衡感覚がマヒしてしまったような感覚に襲われた。

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▲歩いていると動物の糞か死体のような臭いがときどき鼻を驚かす。動植物保護のため立ち入ることができない保護区域には猫の姿が目につく。

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▲柵で囲われた池。なにかの溺死体でも浮いていないか仔細に目を凝らしたが、気配もなかった。あずまやで休む老人に挨拶の声をかけたが、曖昧な目をピクリとも動かさず返ってくる言葉もなかった。痴呆であろうか、それとも…。

そこは、縄文の時代からとめどなく溢れ出る名湧水が、すり鉢状地形の底辺に溜まった池地であった。

 

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かつては縄文人の憩いの場であったかもしれない。江戸時代あたりにはアベックのデートスポットだったかもしれない。だが「名湧水57選」であるからして、畏れ多いが私にはカナブンほどの興味もない。

ますます胡乱鬱蒼とした沼に身を沈めたいという想いが湧き上がってくる。

雨が降ってくるとちょうど閉園を告げるアナウンスが流れたが、沼なしでは生きていけなくなって濡れそぼる私を怪しげな目で管理人が見ていた(ような気がした)ので、傘を求めて公園をあとにした。

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■赤羽自然観察公園
[所在地]
115-0055
東京都北区赤羽西5丁目
[電話番号]
03-3908-9275(まちづくり部 道路公園課 公園河川係)
[赤羽駅からのアクセス]
JR赤羽駅西口 徒歩13分
地下鉄三田線 本蓮沼駅A1番出口 徒歩13分
バス停からのアクセス方法
国際興業バス 赤羽自然観察公園 徒歩0分
[開園時間]
4月から9月まで:午前8時から午後6時まで。
10月から3月まで:午前8時から午後4時30分まで。
いずれも入園は閉園時間の30分前まで。
休園日はなし。
*情報は2013年3月25日現在のもの

■参照サイト
赤羽自然観察公園(ウィキペディア)

自衛隊武器補給処前誤爆事件(ウィキペディア)

沼田小三
沼田小三(ぬまたしょうぞう)。古希に近づく昭和生まれ。日本各地の沼を巡る沼研究の第一人者。新宿区在住。

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