第一話
ジュボーという音と共に、壁際に敷きつめられた小石の隙間から、熱い蒸気が吹き出してきた。
薄暗い、洞窟のような空間が、あっという間に、白い気体でいっぱいになる。
柏木は、膝の上に、下半身のイチモツを隠すようにして置いていたタオルを手に取ると、額から噴き出してきた汗を拭い、軽く畳んで、左脚の太股の上に乗せた。
その時、熱さに耐えかねた男が1人、入り口の小さな木の扉を押して、外に出て行った。
壁の両側に沿って5つずつ、向かい合うように並べられた陶器の椅子には、柏木と、もう1人の男だけが残ることになった。
白い蒸気の向こうに、ぼんやりと、その男の姿が見えた。歳は、40前後だろうか。
髪を短く刈り込んだその男の顔は、どことなく平松に似ていると柏木は思った。
平松は、柏木が所属する編集部の編集長だ。
気分屋の平松の存在は、柏木にとって、最大のストレスの原因だった。
W大学を出ているという平松の発言は、常に理に適っていた。しかし、その高圧的な物の言い方が、しばしばカミソリのように、柏木の心に傷を付けた。
柏木は、今まで、何度、「殺してやる」と、叫んだだろう。
だが、その叫びが声になって表に出たことは一度もなかった。その叫びは、幾重にも重なって、柏木の胃の辺りに沈殿していった。
柏木が、たいした給料ももらってないのに、週3回は、会社帰りにスーパー銭湯に寄るのは、その沈殿物を汗に変えて、サウナで排泄させるためだった。
蒸気の噴出が止んで、しばらくたつと、次第に視界が戻ってきた。
正面に座る男が、ひょっとして平松本人なのではないかと、柏木は、もう一度、その男を見た。
柏木は、一瞬で、視線をその男から外す。
その男が平松だったからではない。
男が下半身のイチモツを硬く膨張させ、それを柏木に見せつけるように大きく脚を開いていたからだ。
ホモ。
柏木の頭の中に、咄嗟にその二文字が浮かんだ。
嫌なら、瞑想サウナという看板のかかる、その薄暗い場所から出てしまえばいい。
だが、柏木は、もう一度、ゆっくりと、視線を男に戻し、じっと下半身に目をやった。
見るだけで、相手が悦ぶのなら、見てやってもいい。それに、平松に似た男がこの先、どういう行動に出るのかにも、少なからず興味があった。
男は、チラチラと、柏木の顔に視線を送った。目を合わせてしまえば、同好の士だというサインになってしまうと思った柏木は、ひたすら、男の下半身の一点だけを見つめ続けた。男は、入口の扉の方をチラリと見て、誰も入って来ないのを確認すると、右手で、自分のイチモツを握り締める。
単に勃起していただけなら、事故かも知れないが、人前で握ってみせたとなると、これはもう、間違いない。
27歳の柏木にとって、それが生まれてはじめての、その手の男との遭遇だった。
編集部に出入りするカメラマンの有田が、「浅草にはホモサウナがある」と言っていたのを思い出した。
その話しを聞いた時も、柏木は、自分とは無縁の遠い国の話しのように思っていた。
男は、握ったまま、手を前後に動かし始めた。
先端部分は赤黒く、自分と同じように普段は包皮に包まれているのだなと、柏木は思った。
男は、時折、左手で袋の部分を、マッサージするように揉んでから、下の方に引っ張っていく。
その度に、イチモツは、ビクンと動いて更に硬さを増していくように見えた。
柏木は、自分に自慰行為を見せつけている男の気持ちについて、少し考えてみた。
自分を誘っているのか、それとも、恥ずかしさを味わっているのか。
もしも、ここで、自分が「変態!」と、大声を出したり、スーパー銭湯の店員に訴えたりしたらどうなるのだろう。
いずれにせよ、その男が、リスクを冒してまで、見知らぬ自分に、恥ずかしい姿を晒していることは確かだと思った。
それなら、その男が射精するのを見届けてあげよう。見るだけなら別にどうってことないし、カメラマンの有田に会った時に、自分から話題も提供できる。
それに、ここで逃げ出さずに、その男の射精を見ることで、未知の世界へと、踏み出せそうな気がしたのだった。
そんなことを柏木が考えたのも、そこが、日常の空間とは気温も湿度も違う、薄暗く密閉した場所だったせいかも知れなかった。
「瞑想サウナとは、よく言ったものだ」
柏木が、心の中で、そんな考えを巡らせているとは関係なく、男は、右手の動きを早めていった。
男は、タオルで隠されていない、柏木のイチモツに、絡みつくような視線を送り始めた。
その時になって、柏木は、自分のモノが露出状態であることに、ようやく気が付いた。
人に見られていると思うと、柏木は、自分のモノの先端部分が、包皮に覆われていることが、恥ずかしくなった。
柏木は、さっと、右手で皮を引っ張り、亀頭を露出させた。
そうではなくて、再びタオルで隠せばよかったと、柏木が思った時は、すでに手遅れだった。
「お、大きいね…」
男が、震える声で、柏木に話し掛けてきた。
皮を剥いたことが、奇しくも、同好の士であることを示すサインになっていたことに、ようやく柏木は気付いた。
柏木に、その趣味は全くない。
女とのセックスすら、まだ、なかった。
会社で聞かれれば、「大学の時に彼女がいた」と経験有りを装っていたが、それは単なる見栄だった。
23歳の時に、大塚のピンサロで、初めて女の秘部を触り、口でしてもらった。
24の時には、新宿のヘルスに2回行ったが、それが、柏木の女経験の全てだった。
男に声を掛けられ、行き場を無くした柏木は、じっと、蒸気で濡れた御影石の床を見ていることしかできなかった。
男は、立ち上がった。
イチモツを握り締めた右手は、猛スピードで動いていた。
「大きいねえ…」
伸びた男の左手が、柏木のイチモツに迫ってくる。
柏木は、怖いと思った。
しかし、同時に、「モテている」と、生まれて初めて感じた。
そのことが嬉しかったからかどうかは分からないが、柏木のモノも、ムクムクと膨張していった。
「凄いよ」
男は、そう言ったのと、ほとんど同時に、左手で、柏木のイチモツを握った。
それは、男の手の中で、更に硬さを増し、2度、ビクンと脈を打った。
天井に付着していた水滴が、自らの重さに耐え切れなくなって、ポチャンと、柏木の頬の上に落ちた。
それが夢なら、この時、目が覚めていたであろう。
だが、全ては、現実だった。
柏木が生きてきた日常の、わずかに1ミリ向こう側に、ずっと前から拡がっていた世界だ。
柏木は、27歳のこの日、薄い壁を破って、初めてまだ知らぬ世界に足を踏み入れた。

- 志井愛英
- 小説家。昭和41年生まれ。同性愛者、風俗嬢、少数民族、異端芸術家など、マイノリティを題材にした作品が多い。一部の機関誌のみでしか連載しておらず、広く一般に向けた作品は本篇が初。
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