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第三回 「仙台・柚ノ木溜池」

1.今回の沼

今回は杜の都・仙台に足を伸ばした。

仙台に住むテンガロンハットの紳士=T氏との出合いが発端となっている。古くから続く沼筋のネットワークもここにきて一気に広がりつつあることを実感している。

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▲仙台駅前。人通りがおおくファッショナブルな若者が多い印象。もしやと思い、あたりを見回すがT氏の姿は見あたらなかった。

 

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▲名前に惹かれて途中下車してみた「岩切駅」。正岡子規が1893年の夏に取材に訪れた折、「はすの花 さくやさびしき 停留所」というような句を詠んでいる。地名の由来はその名の通り、岩を切り出した地ということにあるらしい。

2.横穴と沼
仙台駅からJR東北本線に乗り約17分、終点駅「利府」。

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横穴古墳群(菅谷)が発見されるなどこのあたり一帯には後期古墳時代から人間の生活痕跡があった。
菅谷の横穴古墳は、江戸時代(1711年)に道安寺の住職が夢のお告げを受けて裏山を掘ったところ、高さ約10cmの黄金不動明王と古代土器とともに発見されたといわれている。わざわざ和尚の夢に現れてお告げをしたのは一体何者であったのか?

(参照「十ッ符魂のブログ」http://blogs.yahoo.co.jp/toptamashii/30861056.html

古墳からは関東地方との繋がりを示す出土物も出ているとされ、遠く離れた吉見百穴横穴墓群との共通点は見逃せないポイントとなっている。


死や小学生や虫と私の境界線も随分とあやふやであったであろう古代から人が営みを紡いできた豊穣な地の沼。ぞくぞくするような期待感に、頭から沼の汁が流れ出てくるのではないかという気がして、耳に手をあてながら目的地へ向かう歩を早めた。

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▲木の配置が自然(?)と鳥居のようになった土地。いかにも沼がありそうな雰囲気に辺りを見回したがなにもなかった…。隣には生活汚水でぶくぶくと泡だった川が滞っていて期待を誘う。

*話は逸れるが同じく利府町にある「櫃ヶ沢遺跡」(ひつがさわいせき)は、波打ち際に夥しい量の製塩土器が散布する特異な景観を有する。入り江の奥部は湿地のようになっているということで、いつかは訪れたい場所のひとつである

 

3.老人は少女のように

さっそく地図を頼りに道を歩くと「沼らしい」雰囲気の場所に突き当たるものの、何度も肩透かしを食う形となった。期待と焦燥が繰り返し老人の胸に押し寄せてくる。そうした感情の機微のひとつひとつが沼歩きの楽しみとなっていく。

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駅から歩くこと約15分、車通りの多い道(石巻街道)を右に逸れてすぐのところに目的の沼が見えてきた。

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▲「変質者」「不審者」というキーワードの隣の看板にある少林寺拳法入会者募集の張り紙。取り合わせのコントラストがまぶしい。

沼にぴったりの不穏なキーワードを孕む看板が目に飛び込んできた。「変質者」「出没しています」という文字に、老人の胸はまるで少女のように早鐘を打ちはじめたのだが…。

 

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▲期待は空しく沼だと聞いてたずねた場所は「柚ノ木溜池」という名前の池であった。

 

4.沼とそれ以外のもの
造成された雰囲気にがくりと肩を落とした。
新幹線に乗り、横穴古墳の存在を知り、劇団四季のキャッツを見てウキウキと浮き立っていた自分の姿を思い出すと、あぶら汗をともなう動機に見舞われて目の前が暗くなっていく。
この池ははおそらく田畑に水を供給するための人造の溜池であろう。

しかし、池をくまなく観察すると私の興味を引く「沼らしい」雰囲気のポイントをかろうじて3つ発見することができた。
-池の上に家が建つ
-岩のある地
-得体の知れないもの

 

5.なにか分からない

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▲仙台まで足を伸ばしたものの、池を取材することになってしまったことで一時的に牛タンの味が分からなくなるほど悔しい思いをした。しかし、唯一の救いはこの池が興味深いポイントをいくつか持っている点であった。しかし、利府の隣駅「岩切」にも沼の存在が確認できていたのだ、もしそちらを選んでいれば…

池に建つ家、雨季前で水量が少ないためかその土台となる岩盤を含んだ古い地層が見えた。そのことから、ある程度古い歴史を持ってこの土地に存在していた池だと予想された。

また、池の周りを囲む畑に目をやると地中に埋まる大きな岩が散見された。おそらく古代にはこの一帯は海であって、ちょうど窪みになったこの地に海の一部が残って池の原型となったのではなかろうか。

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池に建つ家の半分ほどを囲むように浅い湿地があり、その湿地になにか得体の知れない不穏なものが池に向かって突きでていた。きっとこれが、変質者として出没して子供をさらってちぎって食べるのだ。おそましい想像だけが頭を巡っていって止まらない。はたして住民はその存在に気がついているのであろうか…。

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カメラのズームを最大にしても、もちろん老眼の私の目でもそれがなにか分からなかった。ジッとそれを見つめ続けたであろうか、やがて私自身がそれになってしまったように錯覚していった。

あたりが暗くなる夕方、下校する小学生の姿がちらほらと見えだしていた。

 

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▲警戒地区なのであろう、パトロール車が通り過ぎていく。

 

 

沼田小三
沼田小三(ぬまたしょうぞう)。古希に近づく昭和生まれ。日本各地の沼を巡る沼研究の第一人者。新宿区在住。

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