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第十九話

 

 

「あの、柏木由紀に似ている人いますか」

 柏木は恥を忍んで、店の前に立っていた黒服に話し掛けた。

 1人でキャバクラに行くのは、柏木にとって初めてのことだった。普通なら、そんな勇気はない。

 だが、有田が吉原のソープで、昼間知り合った森カンナ似の女と繋がり合っていることへの悔しさが、柏木の背中を押した。

「はい、恐らく京華さんのことだと思いますが、ご指名ですか」

「はい」

 柏木は、自分がその女に好意を寄せてしまったことが、早くも知らない男にバレたようで恥ずかしかった。

 黒服は、セット料金がどうだの、サービス料がどうだのと続けたが、緊張して硬くなっていた柏木の鼓膜は、それらを弾き返した。

 柏木は、店の入り口近くのボックス席へと通された。

 背中が大きく開いたドレスを着た女が横を通り過ぎると、2秒ほど遅れて甘いトワレの匂いが、フワッと柏木に降ってきた。

 女装子とキャバ嬢は同じトワレをつけているかも知れないが、その匂いは明らかに違う。

「女の匂いがする」

 口に出せば「キモい」と言われるであろう言葉を柏木は頭の中で発した。

 タバコを吸わない柏木は、京華を待つ間の手持ち無沙汰を紛らわすために携帯をいじろうとポケットに手を入れた。

 ちょうどその時、携帯のバイブが震えた。

 液晶画面に表示されていたのは「先生」の番号だった。

 何とまたタイミングが悪いんだと思いながらも、もう無碍に切るわけにはいかない。

「はい」

 柏木は周りをキョロキョロと見渡しながらゆきの声で電話に出た。

「あ、ゆきさん、今夜会えないかね。また、淫乱な若い子連れて行くから、レズってみないかね」

 それは柏木にとって、この上なく嬉しい知らせだった。

 最初からキャバなんか行かずに「先生」に電話しておくんだった。

 そう思ってはみたものの、今ここで店を出るわけにもいかない。

 柏木は、ゆきの声で「お誘いありがとうございます」と言った。

「会えるんだね」

 柏木は、右手を口元に宛てて壁を作り、声が周りに聞こえないよう、背中を丸めてそう尋ねる「先生」に返事しようとした。

 そして、どこに行けばいいのか、裏返した声で聞いた。

「あっ、柏木さん。嬉しい、指名で来てくれたなんて」

「先生」の声よりも先に、背中の方から女の声が飛び込んできた。

「すいません。また後で掛け直します」

 柏木は更にトーンの増した声で早口にそう言うと、慌てて電話を切った。

 振り返ると、昼間、上野のスタジオで会ったOLがいた。

 髪を少し盛っていて、赤いドレスを着ているせいか、昼間よりも美人に見える。キャバ嬢に扮してドラマに出ている柏木由紀よりもいい女だ。紛れもなく柏木の好みの顔だった。

 柏木の額からは、一気に汗が噴き出した。

 好意を持った女に、生まれて初めて積極的な行動に出ようと意を決して店まで来たのに、女声を聞かれてしまったかも知れない。

 京華は、そんな柏木の苦悩など知る由もなく、慣れた手つきでウイスキーの水割りを作り始めた。

 氷を掴んでいたトングを握る指先は、白くなめらかだった。

 あの指で自分のモノを握られたらどんな気分だろうか。

 いつも女装子になって、男のゴツゴツした指にばかり握られている柏木には、それだけでもセックスと同じくらいの価値があるように思えた。

「カメラマンの人は一緒じゃないんですね」

「うん。あの人、ほら、最後に撮ったモデルさんの店に行ったから」

「あっ、そうか。吉原でしたっけ」

 京華の口から「吉原」という言葉が出るのを聞いただけで柏木は狼狽え た。

 昼間、有田が京華に風俗で働いていないかを聞いたが、もしも京華が「はい」と答えていたら、行っていたかも知れないと、柏木は思った。

 でも、こんな可愛い人の前で勃起したイチモツを晒すのは相当に恥ずかしいだろう。そう言えば京華は、自分のことをマゾだと言っていた。一体、どんなことをされると感じるのだろう。

 柏木は、京華が作った水割りのグラスを唇につけたままで言葉は出ない。ただ脳の中では饒舌に、京華に話し掛けていた。

 それから京華と一体何を話したのか、柏木は覚えていない。恐らく京華が振ってくれた話しに、「うん」とか「はい」とだけ答えながら、ドレスから覗いていた白い生足をじっと見つめていたのだろう。

「お時間ですが、延長はどうなさいますか」

 黒服にそう言われて時計を見ると、確かに入店から50分が過ぎていた。

「いや、用事があるので帰ります」

 柏木の用事とは、言うまでもなく「先生」へ電話することだった。

「帰っちゃうんですか」

 と、京華は両手で柏木の左手を握った。

 柏木は嬉しさと恥ずかしさで心臓が破裂しそうだった。

 その時、また、ポケットの中で携帯が震えた。

 柏木は会計をテーブルの上に置くと、右手で「ゴメン」と京華に会釈し て、携帯を耳に宛てながら早足で店を出た。

 歌舞伎町の雑踏の中では、女声で話しても全然平気だった。

「ゆきさん、12時に京王プラザに来てもらえるかね。えーと、部屋は南館の3411」

 電話口の「先生」は少し酔っているようだった。

 柏木は、「はい」と精一杯女の真似をした声で答えた。

 

 

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志井愛英
小説家。昭和41年生まれ。同性愛者、風俗嬢、少数民族、異端芸術家など、マイノリティを題材にした作品が多い。一部の機関誌のみでしか連載しておらず、広く一般に向けた作品は本篇が初。

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