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第九話

 

仮眠室には誰もいなかった。

入り口のドアが閉められると、ゆきと有田二人切りの空間になった。

有田は、ゆきの手を引いて、奥のソファへと連れていく。

有田の手が柔らかいと、ゆきは思った。

ゆきは、編集者の柏木として、今まで何度も有田に会っていたが、手に触れたのは、この時が初めてだった。

有田は、ソファに座っても、ゆきの手を握ったままだった。

空いている有田の左手が、ゆきのスカートの中に入ってくる。

カウンターで、有田が上手に触ったため、ゆきのパンツには、粘液のシミができていた。

「ゆきさん、エッチなジュースが出てますよ。可愛いなぁ」

有田はそう言うと、ゆきのパンツの小さなリボンが付いている辺りを指で下にずらし、すでに硬くなっていた中身を取り出した。

有田は、そこに顔を埋めると、それを口に含んだ。

この三ヶ月の間に、ゆきは十数人の純男に咥えられてきたが、有田の舌遣いは他の誰よりも絶妙だった。

唇を舌で温かく包み込むように咥えたかと思うと、まるでナメクジでも這うように、ソフトに舌先を先端部分に絡ませてくる。

有田は、先端を咥えたまま、茎の中央部を中指と親指を使って上下に擦っていったが、その指遣いは、柏木が数年前、大塚のピンサロで風俗嬢にしてもらった時のようにしなやかだった。

ゆきは目を閉じ、女にしてもらっていることを想像した。

女装子になったとはいえ、ゆきはゲイではない。

本当は、男ではなく、女に咥えて欲しかった。

風俗店以外で、女にしてもらえることなど、夢のまた夢だった。いや、具体的なイメージが湧かないから、夢にもならない。

ゆきにとって、女にしてもらえるのは、自分とは別の世界で生きている、有田のような口のうまい女たらしか、イケメンだけが持っている特権のように思えた。

ゆきが「ミスト」で会った女装子の中にも、同じようなタイプが一人いた。

22歳のその女装子は、女にモテたことがなく、女との経験は、風俗を含めて一度もないと言っていた。

サウナで男に咥えられたことがきっかけでこの世界に入り、射精したくなると、女装子になって「ミスト」に来て、男に咥えてもらうという。

しかし、ゆきやその女装子のようなタイプは、他には会ったことはない。

中学の頃くらいから、女物の下着をこっそり着けていたという女装子や、女装して、可愛い女の子に見られることが嬉しいから女装子になったと言うのを最もよく聞いた。

男のイチモツを咥えたり、男に後ろの穴を犯されたりしたいが、ゲイでいるより、女装した方がモテるからという女装子もいた。

「ミスト」に通い始めて三ヶ月、ゆきは、それまで全く無縁だった女装子の世界を少しずつ知るようになっていた。

 

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有田に咥えられたアノ部分は、今にも溶け出してしまいそうに熱かった。

このまま有田の口の中に出してしまおうか。

あの、いつも強気な有田の口の中に射精してしまうのは、それはそれで愉快だ。

その上で「飲んで」と言えば、有田は射精を飲み込んでしまうのだろうか。

ゆきは、遂にチャンスが到来したのだと、その時思った。

自分ことを、平松に「ホモ」だと言った有田への復讐のチャンスだ。

もうこのまま有田の口の中に出してしまおう。

ところが、気を抜きさえすれば射精してしまうという限界まできていたゆきは、腰を引いて有田の口から自分のモノを抜いた。

「私もしたい」

ゆきは、そう言うと、有田のズボンのベルトを外し、ジッパーを下ろした。

目の前に現れた有田のイチモツは、黒々と聳り立っていた。

「デカい」

ゆきは、女装子になっていることを忘れ、素の声で、そう言いそうになった。

「ご立派ですね。モテるでしょう」

ゆきは、慌てて、裏声で、そう言葉にした。

大きく口を開けて、亀頭部分を咥えた。

「すごく嬉しいよ、ゆきさん。夢みたいだ」

有田は、撮影の時にモデルを褒めるように、大袈裟に気持ちを現した。

これで、更なるチャンスを手にしたと、ゆきは思った。

口の中にあるものを、一気に噛み切ってしまえば、有田は、一生男として不能になるのだ。

女たらしの有田にとって、セックスできなくなることは死ぬほど辛いに違いない。

今、有田を生き地獄へと送り込む切符を手にしているのだと、ゆきは思った。

そんなゆきの気持ちを有田は知る由もなかった。

有田は目を瞑って、右手で自分のモノの根元を扱きながら、亀頭をゆきの温かい口の中に委ねていた。

 

志井愛英
小説家。昭和41年生まれ。同性愛者、風俗嬢、少数民族、異端芸術家など、マイノリティを題材にした作品が多い。一部の機関誌のみでしか連載しておらず、広く一般に向けた作品は本篇が初。

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