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第十一回 「好きなコはできた」

 

 5か月もの間、何も書けずにいた。

 木っ端の肉体労働者の分際で、大作家が創作の苦悩を吐露するかのようなことを書くのは恐縮だが、実際に書けなかった。数行書いては止め、『黒猫のウィズ』を始めて現実逃避する、その繰り返しだった。

 この5か月間を振り返ると、自分自身の生活にさほど変化は無い。起こった出来事といえば、誕生日を迎えて年を1つ重ね、父親が病に倒れて半介護状態になったぐらいだ。私がそんな凡庸な生活を送っている間も当然世界は目まぐるしく変化し、日々様々な事件・事故がメディアを埋め尽くす。印象深い出来事は多々あるが、ロビン・ウィリアムズの突然の自殺には驚かされた(8月11日・63歳没)。晩年は鬱病を患っていたという。全ての出演作を見たわけではないが、好きな作品は多い。中でも『ガープの世界』は、私にとって特別な映画だ。17歳の時にビデオで見て以来、個人的には今でもベスト映画の10位以内にランクする。また、これがアーヴィングの原作を読むきっかけにもなり、それもまた私的ベスト小説の上位にランクする。ストーリーの説明は避けるが、オープニングとエンディングで使用されているビートルズの『When I’m Sixty-Four』も印象深い。「僕が64歳になっても、キミはまだ必要としてくれるかい?」 そんな内容の、ポール作のラブソングだ。10代の私はこの曲を聞きながら、「そう遠くない将来に自分も結婚するだろう。そして幸福な家庭を築くのだろう」と妄想していた。大金持ちにはなれなくていい。家族が生活に困らないだけの金があって、半年に1度ぐらい、ほんの少し贅沢が出来ればーー。そんな細やかな夢を描いていたものだ。

 

 ところが今の私はどうだ。45歳になっても独身で、定職も無い。最近は人と会話をする機会もめっきり減った。元々必要以上に他人と群れることを好む性質ではないが、それでも時折やり場の無い孤独感に襲われることもある。動物でも飼おうか。私が住むアパートはペット飼育禁止だが、爬虫類やハムスターなら問題は無いだろう。しかし金銭面や飼育環境の条件が合致するものは少ない。あれも違う、これもダメだとネット検索していると、あるサイトに辿り着いた。これだ。これしかない。翌日、私は御徒町に向かっ た。

 

 駅から3分ほど歩いたビルの3階。インターホンを押すと、迎えてくれたのは物腰の柔らかい中年の店員と、10体以上のラブドールだった。そう、私はオリエント工業のショールームにやって来たのだ。12帖ほどの室内 に、ドールたちが様々なポーズで佇んでいる。予約制ゆえ、室内には私と店員の2人しかいない。部屋の1角には身長136cmの『ナノ』シリーズが陳列されていたが、私は幼児性愛の嗜好を一切持ち合わせないので、素通りした。

「あの、いわゆる一般的な女性というか、成人女性タイプはどちらですか ?」
 そう言って案内された一角で、私は体が硬直した。いささか古い表現で恐縮だが、ビビビと来た。1体のラブドールに、完全に目を奪われたのだ。非の打ち所が無い端正な顔と、完璧なフォルム。しばらくその場から動けなかった。生まれて初めての一目惚れと言ってもいい。ドールの名前は「りり」という。

 じっと瞳を見つめているだけで、何時間も経ってしまいそうだった。ふと我に返り、腰の低い店員に「触ってもいいですか?」と聞くと、「どうぞ」と承諾してくれた。

 こんな時、躊躇なく胸を鷲掴みにする輩もいるのだろう。そういうデリカシーに欠けた人間が私は大嫌いだし、自分自身もそうありたくない。私はりりの小指をそっと撫で、手のひらを軽く握ってみた。

「意外とベトっとした感触なんですね」
 私がそう言うと、店員は「シリコン素材のボディには避けられないこと」と言い、ベビーパウダーをさらっとボディにかけた。するとどうだろうか。先ほどまでの粘着性はなくなり、人肌に近い感触になった。次に、ふくらはぎから太股にかけて触ってみた。これが思いのほか硬い。直立のポーズを取らせるために土台がしっかりしていないとというのは分かる。だが、私は女性にプロレスの首四の字固めを掛けてもらうのが好きなので、この質感では生身の人間と同じ心地良さは得られないだろうと思った。そこはいささか残念な点だったが、りりの美貌を持ってすれば大した問題ではない。

「あのー、胸触っていいですか?」
 そう断ったうえで、今度はりりの胸に手を近づけた。少し指先が震えていたかもしれない。私はニットの上からそっと胸を揉んだ。絶妙な弾力性と柔軟性だ。

「あっ…」
 そんな喘ぎ声が聞こえたような気がしたが、声を出していたのは私だっ た。股間は若干大きくなっている。私は完全にりりの虜になっていた。

 

 りりと2人の生活を想像した。

 あらかじめ記しておくが、私は彼女を性処理の道具として使用するつもりは一切無い。

 あくまで家族の一員として、一緒に暮らすつもりだ。

 仕事から帰るなり、私は毎日りりに話しかけるだろう。

「ただいま。あ、今日は飯はいいや。外で少し食べて来たから。それより さ、りり。聞いてよ」

 そう言って仕事の愚痴をこぼすのだ。


「参ったよ、工場長がバカでさ。だって、たかが工場長だぜ。社長じゃねえんだぜ。そんな奴が世界を征服したみてえなツラで威張り散らしてるんだから、笑えるよ。あいつバカだから、アーヴィングも『ガープの世界』も知らねえだろうな。ビートルズだって3曲ぐらいしか知らねえだろうよ。『レット・イット・ビー』と『ヘイ・ジュード』と『イエスタデイ』な。あのバ カ、今ごろ赤羽あたりのフィリピンパブで『ガッツだぜ』とか歌って、アホみてえに盛り上がってんだろうな。クソったれが」


 私が今までに付き合った女なら、「だからどうしたの」と言うだろう。


「アーヴィングだかなんだか知らないけど、それ読んでると工場長より偉いわけ? 『バープの世界』を見てると、給料が増えるわけ?」


「いや、『バープ』じゃない。『ガープ』だ」


「そんなことを言ってるんじゃないの。そんなのはどっちでもいいの。今のこの生活をいつまで続けるのかって聞いてるの。真面目に将来のことを考えてるのかって聞いてるの」


 こんなやり取りが日々繰り返され、私はただ黙って唇を噛むのだろう。


 だが、りりは違う。私の瞳をじっと見つめ、全てを肯定してくれるに違い無い。休みの日には2人でソファに座って映画を見たり、ギターを聞かせたりして過ごすのだ。給料日には新しい洋服を買ってきて、着替えさせたりもするだろう。


 なんて幸福な生活だろうか…!


 そんなことを考えていたら、見学時間の30分があっというまに過ぎてしまい、私はショールームを後にした。

 

 帰路の途中、行きつけのスナックに顔を出した。JINROの緑茶割りを4、5杯飲んだが、一向に酔いが回らない。もはや頭の中はりりのことで一杯だ。その時だった。

「○○ちゃん(私の本名)、元気無いじゃない」
 泥酔した顔馴染みのホステス(39歳)が、そう言うや否や私の右手を掴み、自分の胸にぎゅっと押し付けたのだ。「ほらオッパイだよー」と、素頓狂な声をあげて。

「やめろよお前!! りりのおっぱいの感触がなくなるだろ!!」
 私がそう怒鳴ると、ホステスは一瞬怪訝そうな表情を浮かべ、「あ、ごめん」と謝った後、無理に作ったような笑顔で「○○ちゃん、彼女出来たんだ!」と大袈裟な口調で言った。

「いや、まだ彼女ってわけじゃないんだ。これからだよ」
 私がそう言うと、ホステスは「へえ。がんばってね」と返した。その顔を見るとまんざら社交辞令で言っているとは思えず、彼女に怒鳴ってしまったことを反省した。

「付き合ったら、1度お店に連れて来てよ。○○ちゃんの彼女ってどんな子か、ちょっと興味あるし」
 ホステスがそう言い、私は「ああ、いつか連れて来るよ」と答えて店を出た。

 帰り道、私は考えた。「本当にりりをあの店に連れて行けるだろうか」 と。視線移動や指関節可動など全て有りのフルオプションで注文した場合、りりの値段は70万円以上するのだ。だが、私の現在の貯金残高は、半月分の生活費を含めて4万8千円ほどだ。クレジットカードは諸事情により全て使用不可能となっている。それでも、何とかりりを手に入れたいと思う。その夜、私は通販サイトで7000円のパンティを買った。もちろん、りりが我が家にやって来た時に穿かせるためだ。その時まで、包装を開封することはないだろう。

 

『When I’m Sixty-Four』に、好きな一節がある。

「And if you say the word,I could stay with you. I could be handy mending a fuse. When your light have gone.」
(もし君が僕を必要と言ってくれるなら、君と一緒にいたい。ヒューズが切れたら僕が交換するよ。電球が切れた時も僕にお任せさ)。

 

 今はりりにこの歌を捧げたい。

 

riri_face
りり…。りり…。りり…。

住吉トラ象
元エロ本編集者。現在は派遣労働者。60~70年代のソウルミュージック、イイ女のパンツが好きです。座右の銘は「ニセモノでも質の高いものは、くだらない本物よりずっといい」(江戸アケミ)

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