2019 大阪展本番

 

 オフラインイベントで「大ファン」がやらかす迷惑といえば、歴史に学べばhagex事件が思い浮かぶ。
 オンライン上でバカにされ続けた異常アカウントがリアル講演会に突撃し、殺人に至ったものだ。
 また、相手を犯罪者と確信する妄想——俗用ではなく精神医学用語の方の、訂正不可能な思い込み——に注目すればスマイリーキクチ事件が思い浮かぶ。
 児童性愛憎しの情念が絡めば、ピザゲート事件、Qアノン、ディープステート妄想も類似の事例である。
 これら事件事例の教訓は、どんなイベントであっても「大ファン」を抱えた時点で殺人や暴動の発生が予期されるということだ。

 セキュリティを高めるといっても、たとえばなかのひとよが「BLACK BOX」で屈強な門番をつけても会場内の痴漢を防げなかったように、そもそも人間をコントロールするなんて不可能じゃないかと思う。
 トラブルは笑えるレベルに抑え込んで、予期しなかった出来事をも作品として取り込むのがアートにおけるハプニングの考え方。倒れるならなんとかハプニングアート側に倒していきたい。表現も命がけだ。

 2019年6月。

 第三回で書いた通り、全国ポストカード配布作戦はネットとリアルで情報ギャップを作り出すのが目的である。
 ポストカードを受け取るリアル側のパーソンは、不快に感じたとしても無視するだけ。ツイッター廃人は感覚マヒしているが、一般人はわざわざそんなものをネットに持ち込む手間はかけない。
 興味があって、弾圧を受けているという文脈をすでに知っているならネットに流さないし、可燃性を感じるなら自分の身を守るためにネットで言及しないだろう。こっそり自分だけで展示に行くはず。
 応援したいからといって、ポストカードに記載された会場と日時をそのままネットに晒すパーソンは……

 いた。

 器具田のリアル人脈でアーティスト勢に流した中から、ガチで純粋素朴に応援の意味でポストカードを撮影、SNSへの公開が発生した。
 その応援のココロはマジありがたいし感謝しかないんだけど、だけど!!!!!

 ポストカードは拡散されても良いキービジュアルのオモテ面と、日時会場作家名が記されたウラ面がある。オモテ面に会場を書かないのは拡散を考えてのこと。
 SNSで拡散されたほとんどがオモテ面であったが、(本来の意味で)奇特なアーティストパーソンはオモテとウラ両方をアップ。しかも「声かけ写真展」とテキストつき。

 これは想定外だった。
 ワタシはこの公開に気づいてすぐ奇特氏に連絡し、ポストカード写真を削除してもらった。
 でも毎日毎時間ネットに張り付いて検索している「大ファン」がこれに食いつかないわけがない。

 そのエゴサの頻度はすごかった。時すでに遅し、奇特氏は「大ファン」のDM粘着に絶賛巻き込まれ中だったらしい。
 面倒かけてしまったねえ。

 でも情報が漏れるというのとはひと味違うな。主催のこっち側がポストカード作ってるわけだし。
 情報の流れがどう展に影響するか不確定で、観客の性格やふるまいに依存する。

 ポストカードを見てくれている人、見ようとする人、つまり観客がすでにいる。 
 一部の人々にしか見えない展示がすでに始まっている。熱狂的な観客がいる。
 外側からすれば「一体みんな誰と戦っているんだ」というやつだが、これ自体声かけ展の一部だ。

 

 

 さて、会場予約を完了してからもう2ヶ月以上経つ。
 その間音沙汰なしだった貸しボルダリング場からメールが入った。

「管轄の豊中南署から、事件性も含めて写真展のことを調べていると連絡がありました。」
 
 やだー「大ファン」のしわざじゃんこれ。てか警察はこんなのを真に受けるのか……。

「表現の自由だと思いますが、警察沙汰の騒動になると物件の価値が下がったり管理に支障が出るので会場レンタルはキャンセルさせていただきます。」

 声かけ展だけでなく、会場にも営業妨害だよな。
 しかも警察を使った営業妨害は法に問われないというところまで知り尽くした悪質なハック。裏に弁護士がいるにちがいないね。
 会場側も、芸術に理解があると言っていた前言が残念だよ。声かけ展くらいで不動産相場を動かせるわけないだろ。そんなら相場師が展をやればいいじゃん。
 
 でも、悪質ハックも想定内だからね。
 ワタシは会場に返信する。

「写真展の告知はネットでは行なっていません。ポストカードをたくさん刷って全国に撒きました。ポストカードを受け取った不特定多数に情報の訂正は無理です。いくらこちらが訂正しても、開催期間中に全国からそちらに観客が出向いてしまうことは避けられません。となると、現地で混乱が起こる可能性も否定できません。会場キャンセルはそちらの都合なので、会場にこちらの発表文を掲示していただけますか? もし、ご対応いただけずに現地で問題が発生した場合、当方では責任が取れません」

「我々としても当日に会場付近で混乱されている方がいらっしゃいますとあまり都合は良くありません。ただ、正直なところを申し上げますと、警察の方から張り紙もやめて欲しいという依頼がありまして、そのイベントの旨が近隣に知られる事を、すでに近隣の住民から疑問視する要請があるようです。ここの所をどう折り合いをつけていいものか、我々も迷っている状態でございます」

 警察がそこまで指示をしているのか! このやりとりも警察に相談してるってことは筒抜けってことだよな。なんなんだその情熱。直球もド直球の表現規制、憲法違反じゃねーか。
 近隣の住民が近隣に知られることを疑問視って、意味もわからんしな。「大ファン」のことなんだろうけど。
 警察に相談してるってことは、張り紙に新会場がここですなんて書いたら警察がそこにも先回りして潰すに決まってるじゃん。展がどの法律に違反してんだよ。
 日本国民として、憲法違反に加担するわけにはいかない。不断の努力が要請されている。
 ともかくボルダリング場に新会場の情報を教えるわけにはいかないことが明らかになった。

「われわれは当日になるまで会場を探し続けます。開催はあきらめません。なのでQRコードを貼り出してください。QRコードの飛び先で随時開催情報をアップします」

「承知しました」

 会場はキャンセルとしたが、ハプニングアートの場として声かけ展に巻き込ませてもらうことにした。芸術に興味があると言っていたんだから、それくらいいいよな?

 ここで声かけ写真展@大阪はB案に進むことになる。
 題して「プロジェクト・ノック」。

 開催まであと1ヶ月。
 ワタシは大阪ウーバーの土地勘とネット検索で現地のローカル不動産屋にアタック、イベントに使えそうな代替会場を持っている地主を見つけ出した。
 代替会場候補は民家の廃墟。元会場から距離にして3km、歩いて行けない距離ではない。
 物件の写真をざっと確認、ハコよりも貸主が個人であることを重視した。
 業者ではなく地主個人との契約になる。

 B案で用意する会場の交渉はすれ違いがあってはならない。
 ワタシは地主にリアルに会うため、東京から再度大阪に向かった。
 今までの経緯から、ワタシの動きは「大ファン」たちと警察の両方に監視されている。
 これは統合失調症の監視妄想とはひと味違う、声かけ展特有のリアルだ。
 リアルだから困る。
 ツイッターでは大阪行きを悟られないように、写真を上げたり天気の話は一切しなかった。

 大阪で作品ポートフォリオを地主に見せると、
「あー昭和の普通の風景って感じですねー」
「でもこれを犯罪だとか文句つけてくる人がいて展示ができなくなってるんです。イチャモンや警察が地主さんのとこに来ても突っぱねてくれますか? 文句はすべてワタシが聞きます」
「いいですよー、ここで麻薬パーティやるとか詐欺住所に使うとかそういう犯罪じゃなければOKです」

 そうそう、そういう基準でいいんだよ。
 それに、突っぱねてくれると約束してくれた!
 この自由さは個人契約ならでは。組織化したレンタル屋は使いたくないものだな。

 B案は、
 ① イージーモード : クラファンサポーター、アンチでなさそうな一般観客からの問い合わせには代替会場に直接ご案内
 ② フルコース : ポストカードだけを見た人、アンチ、「大ファン」、警察の方々は元会場に集合していただいて代替会場までご案内 
 の構成となっていて、②が3kmを歩かせることから市街劇の発生をねらったものである。

 声かけ展の作品のなかでもごく初期の撮影時期に重なる1975年、劇団天井桟敷の市街劇『ノック』のオマージュを2019年の大阪でやろうというのだ。
 現代アート文脈ならわかってくれるよね?

 『ノック』の観客はまず新宿に行き、黒づくめの男から転入届という名のチケットと地図を購入する。そして西に6km、会場の阿佐ヶ谷へ向かわせる。
 声かけ展はボルダリング場に行き、掲示されたQRコードでリンクを踏み、西に3km歩かされる。

 QRコードのリンクページのURLは「_knock_」で「黒づくめの男は用意できませんでしたが……」と書いておいた。
 警察沙汰になっていることの風刺も込みである。また、大阪の地元経済のために、3kmの道中で商店を利用するなど経済を回しましょう、とも書いた。

 フルコースは最も展を楽しむ方法だが、それはそれとして避けたほうがいい鑑賞方法でもある。
 フルコース客を回避するため、残っているポストカードにシールを貼って新会場に訂正する作業も行なった。これがワタシの誠意だ。

 展示本番前日の7月12日、設営開始。
 廃墟家屋の2階住居を展示場とする。妨害によって広さがボルダリング場の2倍になり、展示点数も増えた。
 恒例の額無し直接壁貼付。
 貼れるだけ貼りまくった。
 東京展よりも広く、スタッフ3人で画鋲を押す指を腫らしながら貼った。

 夜遅くになって、ボルダリング場の方にパトカーが行ったらしい。

 7月13日初日、開始13:00。
 クラファンサポーターやフォロワーが各地から集まり、オフ会となっていた。
 LGBTPZNの団体から花も届けられた。

 

 一方、警察は13時までボルダリング場に張り込みをしていたらしく、QRコードから開催予定が公開されないので中止と判断し、帰って行った。

 これはワタシがうっかりQRコードの新会場案内ページを出し忘れていただけで、13:15ころにボルダリング場から新会場への情報を解禁。

 14時過ぎ、廃屋会場の周りをウロウロしている不審な女性。
「何をお探しですか?」と聞いてみると、恐怖の表情で「いえ……人と待ち合わせを」とモゴモゴ。

 少しして、②のフルコースを達成したパーソンが現れた。
 ボルダリング場からタクシーで来たと言う。歩いて来るために経路を説明したのに、一番安易なタクシー使っちゃったかー。

 続いて先の不審な女性。実は新聞記者だと明かす。
 どうせ発言切り取りでサンドバッグにするんでそ。お断りですよ。入場料払って一般客として見てってください、と言ったら一般客になった。
 記事はアングルをつけないといけない、立場でやってるのもわかってますよ。でもね、ワタシはその個人の良心に語りかけたいの。これ叩くの間違ってますよ、と。※1

※1取材記事こちら

 お次は大阪府警のチーム。なんで来たのと聞くと、通報があったからと言う。
 警察の特権で無料鑑賞していった挙句、「展示を見たところ、あなたを逮捕することはできない」とか、「倫理的には……」とかこっちが何か悪いことをしたかのような言い草。
 ボルダリング場を使えなくさせたのもアンタらだろ。
「警察は会場を規制してはいませんよ」
 はいはい自粛ね。いやちゃんと写真見ろよ、これに倫理の悪さを感じるのかアンタら。
 ちなみに警察と新聞記者の名刺交換も発生してたぞ。


画像
は府警VS器具田教授。監視カメラの日付設定がずれていますが正しくは7月13日です。

 さらにテレビ局が来る。お前らなんなんだ。
 カメラ切って一般客として金払って見て行け、と言ったら会場に一歩も入らず、客として見ることもなくスゴスゴと帰っていった。
 警察が「外で何か撮影してたけど?」と言ってたのはあいつらのことか。廃屋外観だけ撮って報道したのか?
 大阪現地民のトモヨシ氏に聞いたところ、報道されてないっぽい。

 この連続凸があり、何も中断することなく展示は継続した。
 初日の中間2時間程度の凸期間がハプニング茶番のクライマックスであり、クラファンサポーターが帰ったあとなのは非常に惜しまれるところだった。

 民家を借りた2019年7月大阪展。1980年代に個人が自宅でやる塾のような雰囲気をねらい、そのまま壁に写真を貼っている。リビング、キッチン、2つの居室、廊下の各区画で作家別に配置、作風のちがいを楽しむことができる。また一番奥の居室ではおもちゃなどレトログッズ、展の記念限定マグカップなどのバザーが期間限定で設置された。
 妨害弾圧のため謎解き・事前予約制になり、ウィズコロナ期の展覧会運営を1年前に先行して実践。人数が限定された観客から、熱烈な応援メッセージ寄せ書きが残された。
 会期中は猛暑であったが廃墟のためエアコンがなく、作家が持ち込んだ扇風機1台のみ。観客の安全のためスポーツドリンクの用意、室温高温時には一時閉鎖措置を行った。

 

 この展示状況を体験した純粋一般客はひとりもいない。声かけ展を楽しむには運も味方につける必要があると言える。

 17日には、大阪府の青少年・地域安全室というところから3人。特権無料鑑賞。こちらも府民からの通報があって来たと言っていたが、警察よりは物腰が柔らかく、SNSによる異常通報だとわかってもらえたようだ。もちろん警察と同じく、表現内容にケチがつくことは一切なかった(https://www.koekakephoto.net/memorial2019/)。

 ここで注意しておきたいのは、公権力からケチがつかないのは憲法で表現の自由が保障されているからだ。
 ケチがつかないことを以って「警察からお墨付きを得た」というのは誤った認識であると釘を刺しておく。それでは検閲を認めたことになってしまう。その奴隷根性が自由を狭めているのだ。
 権威でも誰にでも、表現をすることの許可をとってはならない。
 それは自分の首を差し出すも同然だ。
 許可を求めることは他の表現者にとっても有害だ。
 許可を取れと叫ぶ奴がいたら、それだけで話を聞く価値はない。
 
 なお、B案演出が『ノック』のオマージュであることを指摘したのはフォロワーの人形作家だけだった。「黒づくめの男と聞いて、怖い人たちがいるかと思った」などは言われたな。

 

 サイドストーリー

 この大阪展と並行して、トモヨシ氏は東京のカップ麺ギャラリー・F氏の支援を受け、同ギャラリーでも別テーマの個展を開いていた。
 その会期の最中、F氏はギャラリー内で亡くなっているのが発見される。生涯現役だった。
 F氏には声かけ展にただならぬ関わりをいただきながら、大阪展完遂勝利の報告ができなかったのは残念です。おかげさまで完遂できました。ありがとうございました。

***

 翌8月、展示完走の余威で祝賀報告会を企画。
 東京民にも大阪展であったことを伝えるのだ。

 東京・池袋にあるイベントバー「エデン」本店で声かけトークイベントを申し込むと、OKが出た。
 エデン本店は一日店長形式のサブカルに強いアナーキーなバーで、キャパは10人ほど。ツイッターで申し込みから集客宣伝まで完結する。

 あの自由なハコならなんでも言えるはず。何しろ元オウム幹部がイベントできるくらいだからな。
 さらにエデンは「子ども食堂」でもある。一日店長は、腹減った子供が来たらタダで店にあるメシを食わせる決まりになっている。

 「声かけ写真バー」開催決定!
 会場のエデンが子ども食堂なので、18歳未満も歓迎です。子供好きが集まっているので安心して来てね!

 そう書いたら当然、エデンに凸が行くよねえ。
 でも、相手はあのエデンだ。

 しかし、謎の力がまたしても働く。
 エデンが継続できなくなる、としてキャンセルを通告してきた。開催1日前にだよ。
 どんな恐ろしい脅迫があったんだろう?

 主催のワタシも「オウム超えの危険物」とかいう称号をいただいたことになるんですが、これどこで使えばいいですか? すっげえ失礼なんですけど!!

 で、大阪B案を東京でも再演しろということなのか、そうだな。
 同じ池袋周辺で代替会場を数時間で確保。こういう特殊ノウハウが高まってきた。参加確定者にはDMで通知。
 ちなみにこの代替会場もエデンより3倍ほど広い。
「会場を潰されると規模が拡大する」というジンクスが成立しつつある。

 ただ、今度はネット告知なのでエデンにQRを貼らせるわけにはいかない。
 自由参加者にはQRの代わりに「楽園を追われし展、討論者となり二百と二の王冠を追跡せよ」と暗号を出した。

 暗号の実体は位置単語変換サービスwhat3wordsの英語版であり、3つの英単語を日本語に置き換えたものだった。「楽園」はエデンのこと、「二百と二」は202号室のことだ。
 解読に挑戦したパーソンもいて、王冠の看板の近くを探したとか聞いた。

 当日は開場直前の絶妙なタイミングで警察が会場ビルにやってきて、早めに待っていた参加者を恐怖させたという。これが偶然なのか弾圧だったのかはわからない。
 来場者多めで大賑わいとなり、タコパ。
 「大ファン」に粘着された経験のあるゲストとワタシでのトークショー。
 第一回声かけ賞もここの参加者たちによって選ばれ、新人作家Najim P. Richardson氏が受賞した。

器具田こする教授
ラブドールとオナホールのR&Dアートユニット「器具田研究所」を運営。メーカーへのアドバイスや技術協力といった説明のしにくい業務でオナニー業界の異常進化を支えている。http://www.kiguda.net/

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