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第六回 「藪知らずのガス沼」

 

1.芥川龍之介の沼

芥川龍之介は「沼」(大正九年三月)のなかで、分身ともいえる「おれ」に沼の霊気にあてられた様を独白させ、自身の将来を暗示するかのような行動に向かわせている。なかでも、体から長く伸びたアレの表現には、こちらもびっくりさせられる。

「沼にはおれの丈たけよりも高い芦が、ひつそりと水面をとざしてゐる。おれは遠い昔から、その芦の茂つた向うに、不思議な世界のある事を知つてゐた。いや、今でもおれの耳には、Invitation au Voyage の曲が、絶え絶えに其処そこから漂ただよつて来る。」

Invitation au Voyage の曲が漂ってくることはさておき、「…その芦の茂つた向うに、不思議な世界のある事を知つてゐた。」とは、沼への深い洞察が伺い知れる。

続けて「昼か、夜か、それもおれにはわからない。」として、曖昧な精神状態を漂わせて沼のムードを盛り上げている。

そうして読者を油断させておきながら、沼のなかにある「憧あこがれてゐた、不思議な世界」へ、ひょいと到達するのであった。

2.伏流水

そこまで書いてぼんやりとしていると突然地鳴りがして、強い揺れを感じたのでテレビをつけたが、画面は砂嵐を映すばかりで、地震のニュースはなかった。

砂嵐をみつめているとやがてニュースがはじまり、市川市の「本八幡通り魔事件」を報じていた。
もしかすると…、という胸騒ぎが起きて「本八幡」へと向かうことにした。

3.八幡の藪知らず

「本八幡」へは「新宿三丁目」から都営線に乗って約46分。

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▲中央やや下、Aのマークがついている場所に「八幡の藪知らず」がある。すぐ近くには「葛飾八幡宮」へと続く参道が伸び、通りを隔てたはす向こうは「市川市役所」である。

本八幡駅から徒歩約6~8分ほどの地にある「八幡の藪知らず」(やわたのやぶしらず)は、約18m×18m四方ほどの森の通称。

ずいぶんと古くから「禁足地」(=入ってはならない場所)とされており、「入れば必ず祟られる」「足を踏み入れると二度と出てこられなくなる」「神隠しにあう」という口承とともに有名である。

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▲本八幡駅から千葉街道に沿って歩く。車の交通がとても多い道路である。ポップな看板でひきつけるファンシーなショップがいくつかみえた。

「禁足地」となったとされる主な謂われを並べてみる。

①最初に八幡宮を勧請した旧地である説
②貴人の古墳の跡とする説(忌み地説)
③中央が凹んでいることからして、八幡宮の行事に「放生会」(ほうじょうえ)があり、「むやみに池に入ってはいけない」と言われていたものが「入ってはいけない」だけが残ったとする説
④藪の中央部に底なし沼があるという説
⑤藪の中央部の窪地から毒ガスが出ているという説
…その他

以上のように「禁足地」となった理由については諸説あるが、私はそこから④と⑤を合わせた「藪の中央に底なし沼があり、そこから毒ガスがでていた」説(⑥)を、ホームページ上に残しておきたいと思う。

古代には藪の中凹みに「ガス沼」が存在した。

「毒気」や「霊気」を含んだガスに近づくと、人死にが出たり、沼に飛びこんだり、重い障害が残ったり、神隠しにあうといったことが頻繁に起きていたはずである。

 

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▲駅を背にして千葉街道を5分ほど歩くと前方にゆっくりと小さな森のようなものが見えてくる。それが今回の目的の場「八幡の藪知らず」であった。想像通り、こじんまりとした竹林といった印象を受けた。

 

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▲車通りは多いのに、なぜだかそういった雑音が小さく聞こえるような気がする。正面からの眺め、「不知森神社」(しらずもりじんじゃ)。もう一枚の写真はその真向かいにあるビル。

万治年間(1657-61)、水戸黄門が藪に入り神の怒りに触れたという話が、後に錦絵となって広まったという。

真昼に入ったにも関わらず、狭いはずの藪は思いのほか深く見通しが立たない。戻る方向さえわからなくなっていると、どこからか位の高いと見える女性(爺との説も)が立ち現れ「ここに無闇に入ってはならない、今回は特別にそなたの徳の高さに免じて返してやる。(ここはあなたの来るべき場所ではない)」という言葉を残して消えて、無事に戻れたという。

いささか胡散臭い話ではあるが、仮にその話が本当だとすると、はたして「ここに来るべき人」とは一体誰なのであろうか?

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▲なんだかひんやりとしている。看板にはこの禁足地の由来と併せて、水戸黄門のエピソードにちなんだ錦絵。その絵の左の人物の足元には骸骨が散らばっている。絵の右で鉄扇を真横に伸ばすのが水戸黄門だとされるが、テレビとは違って、姿はたくましく、帯刀しているのが覗える。

 

いずれにしてもそのエピソードは、江戸時代にはまだしきりに沼からガスが吹き出して人体に影響を及ぼしていたことを示す証拠となるものかもしれなかった。

4.ガスの神託

よく似たケースとして「デルフォイの神託」を頭に浮かべた方もおられるかもしれない。

古代ギリシャ・アポロン神殿内の秘密の場所で、「ピュティア」と呼ばれる巫女が神聖なガス(霊気)を受けて神託(予言)を伝えるとされてきた。

 

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▲デルフォイ(デルポイ)は、古代ギリシアのポーキス地方にあった都市国家。

神託は神殿の中心部にある「立ち入り禁止区域」(=禁足地)で行われていたと、古い文献に史実が残されディオドロスなどの歴史家や、プラトンなどの哲学者までもが証言しているのであった。

その禁足地でピュティアは「神がかり」状態となり、神託を語ったとされる。

つまり、「地球の裂け目から湧き出るガスが神がかり状態を引き起こす」と見られている。

 

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▲パルナッソス山のふもとにあるこの地は、古代ギリシア世界においては世界のへそ(中心)と信じられていた。肛門ではなくへそからガスが出ているとは二重に不思議である。(写真はイメージ)

紀元前1世紀の歴史家ディオドロスがピュティアの始まりについて次のように述べている。

少々長くなるが以下に引用させていただく。

「山羊の番人が発見した神託の霊気を噴く大地の穴は時が経つにつれて危険を及ぼすようになった。すなわち霊気を浴びた人々がその穴に飛び込むようになった。そこで人々はこの危険を避けるために皆を代表して予言する一人の女性を選んだ。はじめは処女を選んだが初々しく神託の秘密を守るのに適しているからだ。しかし客の中によからぬ欲情を掻きたて犯してしまった。このスキャンダル以後は50歳を越えた老女によって神意が告げられるようになった」と言う。

処女から老女への巫女の変更はさぞかし物議をかもしたことであろう。

大地の穴から昇るガス(霊気)を吸うと次第に神がかる。首は前後に揺れだし、髪を振り乱し、眼玉が激しく動き、わななく口から泡を吹き、あえぐ喉からは呻吟の声が漏れ響いたという。

その巫女の姿は大変になまめかしいものであったことが想像される。

もしくは、その場の全員がガスにあてられるもので、それを見たとするすべての証言はあてにはならないということも考えられなくもない。

5.真相は藪の中

「八幡の藪知らず」と「デルフォイの神託」。どちらも似通った地理的特徴を備えていたように思われる。

 

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▲「八幡の藪知らず」周辺には、なぜか病院や接骨院といった建物がおおく目についた。ガスとの関連は…

 

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▲「八幡の藪知らず」の真裏には家があり、裏側からそのなかを確認することはできなかった。あたかも、その本当の秘密が知れるのをかくすように、病院や住宅が密集している。

日本では、神託を与えて人々に豊饒をもたらすかもしれなかったガスを恐れて「禁足地」としたため、その地に対する「恐ろしい」記憶だけが重なり残っていった。

「禁足地」というキイワードが「蓋」となって、その地の役割や記憶をかくしてしまっていたのではないかと考えてみると、本来のその地の姿は、その地に来たるべき処女を、いまでも待っているのかもしれなかった。

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▲正面から向かって右に隣接する駐輪場からの眺め。そのなかを見やすいだろうと師走の季節を選んだというのに竹は雑然と茂り、昼間にも関わらず視界は必ずしも良くない。ガス沼を確認することはできなかった。シャッターを押すたびに、度々、チラっとした光の反射のようなものが目のはじに走った…。

 

はたして現在でも沼のガスから神託を得られるのか。私は処女ではないので代わりにガスを吸ってほしいと相談しようにも、知り合いの女性は70代より上の花弁ばかりであって、頭のなかのお花畑から出ようとはしなかった。

こうして私は処女になろうとした。うすべにの口から沼のガスを全身に吸い込むと、目のはじに写る彼の視線にふくらみかけの胸は震えて、へその下の蕾の奥深くにかくされていた蜜の横溢に言葉にならない言葉を藪に発している。

そして、今そうあるべきことをやっている、という事実が、私に行為を続ける動機を与えてくれた。

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■参照サイト

「沼」芥川龍之介http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/3808_27326.html

「本八幡駅前で殺人、湯浅栞さん死亡-千葉市川」
http://keimusho.net/crime/2013/11/27/chiba-7/

「八幡の藪知らず」(ウィキペディア)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AB%E5%B9%A1%E3%81%AE%E8%97%AA%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9A

「藪知らず(不知藪)の話。」
http://trans.nobody.jp/yabusirazu.htm

「デルフォイの神託」http://feature.jp/new_data/html/kousei/delphoi001.htm

「1神託の地デルフォイ」
http://muso.to/g-derufi-kai.htm

「デルポイ」(ウィキペディア)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%83%AB%E3%83%9D%E3%82%A4

「『はつかいち』 ぶらり」
http://blog.goo.ne.jp/hera_001/e/bb3cbe3019c6569c51992498d6f5478f

沼田小三
沼田小三(ぬまたしょうぞう)。古希に近づく昭和生まれ。日本各地の沼を巡る沼研究の第一人者。新宿区在住。

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