第十五回 「奨学金をオナホにつぎ込んだエロ大学生」

 

 

■ バブル景気下のオナホール

 最も個人的な行為であるオナニー、他人にひけらかすことではないオナニーを目的とした道具が、最も社会的な仕組みである「工場」で生産されている――。

 今でも、オナホ初心者はこの事実に違和感を感じると思う。

 家庭にインターネットが入り込んでいない時代、オナニーを語る場がな い、つまりオナニーが社会化されていない状態なら、なおさらだ。

 エロ本なら書店に並んでいるからわかる。でもアダルトな道具にまで、その類推を及ぼすと現実感が揺らいでくる。

 オナホール登場前夜。まだ硬い素材にモーターを内蔵させた電動オナマシンが主流な時代だ。生産側とユーザー側の意識距離は恐ろしく遠かった。

 ワタシは高校生で、情報源は雑誌広告だけ。

 雑誌広告は審査がザルなため、当時も違法商品や詐欺だらけで信用度は低い。実店舗を持つショップの広告を見て行ってみたりもした。

 バブル景気の頃とはいえ、当時のオナマシンは一万五千円。今の金銭感覚で言うと五、六千円くらいだろうか。やはり思うように買えない。あまりにも高いので、全然代わりにはならないけれど、安いアヌススティックを買って前立腺オナニーを始めたり。

 ワタシは現実感のないアダルトショップで、そのくらいにブレていた。

 

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マーブルキャンディセット

 

 ところで、サブカル文化人というか、ガチの変態は頭が良かったりするもの。ワタシがガチの変態かはともかく、大学に入るにあたって、育英会から無利子の奨学金を借りることができた。貧乏だった高校生から一転、総額で七桁円の資金をゲットしたわけだ。卒業後教職に就けば、この借金はチャラになる。

 借金も収入のうち。学費に使う気はサラサラない。バイト代も含めて、大半はオナマシンとオカズのエロ本、そしてやっと出始めたオナホに当てられることになる。

 最初に出たオナホが8800円。2~3年経つと、バリエーションが増えて3980円あたりがボリュームゾーンとなった。価格破壊である。新宿や渋谷に入りやすいグッズ屋さんも開店、オナホは非日常の夢のアイテムから日用品へ落ちてきた。

 一方、好きだった電動オナマシンは廃盤となり「電動ものに殿堂入り無 し」の格言が流布されるようになる。

 この頃のオナホは、内部構造がほぼネジミゾだけ。お金に余裕ができたとはいえ、ワタシは技巧を凝らしたオナマシンで目が肥えている。代わり映えしないオナホをアレもコレも試そうとまでは思わなかった。

 視点が一段階上がったのだ。

 

■ オナニーとは嫁を作ること

 冒頭の工業製品で個人的行為を果たす違和感に加え、生産側が見えないことによる苛立ちも残る。作っているところを外部から見えない製品は信用できない。

 オナホを自分で作ろうと、東急ハンズの素材売り場にも行った。当時はオナホ素材の扱いがなく、店頭で一番柔らかいとされる素材でもオナニーに使える代物ではなく、人体への安全性も表示されていなかった。ハードルは高い。

 が、もし個人レベルで人間の皮膚のような素材の工作ができたなら、嫁の自作も可能ということ。空気式ダッチワイフとは別次元。時代が変わる。

 これは就職どころの話ではない、理想の女の子を自分で作る以上に大事なことなどあるものか。

 等身大少女人形とオナホへのあこがれは強くなり、そのためにどう動けばいいのかをずっと考えているうちに、大学を卒業してしまった。

 借金をチャラにするために教員になって、ついでに教え子に楽しいこと を、というルートは、その大学に教職課程がなく断念した。

 卒業前後に偶然にもエロ雑誌のライターの紹介があり、ワタシは当時合法だったロリコン雑誌に連載ページを持つことになった。当時はネット上の世界と少女愛のつながりが注目されてきた初期の段階。オタクといっても、IT知識のあるオタクは主流ではなかった。

 高田馬場にある編集部に打ち合わせに行くと、ひとつのフロアが5つほどの雑誌に分かれている。

 ワタシは無関係の編集部員にも名刺を渡していき、売り込みを始めた。

 その中のひとりがデジタルメディアの統括責任者、Kであった。フィルムの写真と原稿用紙が使われている中、社内でいち早くインターネットを引き、DTPを導入し、エロゲCD-ROMをプロデュースした男である。

 ギーク系の話がよく通じるので、ワタシはKからの記事手伝いを長いこと引き受けるようになった。

 やがて彼はラブドール雑誌の編集長となる。CGから物理的なバーチャルセックスの時代が来る、その下地はオリエント工業などの等身大ラブドールによって整えられた、というのだ。

「やあやあ器具ちゃんじゃないかー。新しい雑誌の企画が通ったんだよ。オナニーとITの融合、やってみてくれないか?」

 方向性は同じ。10年近く掛かって、やっとつながった。
 器具田研究所が動き出したのはこのあたりからである。

 ちなみに、奨学金はエロ本の原稿料と印税で完済している。エロの借りはエロで返すのがワタシの美学だ。

器具田こする教授
ラブドールとオナホールのR&Dアートユニット「器具田研究所」を運営。メーカーへのアドバイスや技術協力といった説明のしにくい業務でオナニー業界の異常進化を支えている。http://www.kiguda.net/

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