第二回 「3年間同棲した彼女のパンツ」

 

「下着に囲まれると幸せ」
下着窃盗容疑で男逮捕

民家から女性用下着を盗んだとして、奈良県警高田署は10日、窃盗の疑いで、住所不定、機械設備業、●●●●容疑者(52)を逮捕した。「下着に囲まれていると幸せを感じる」と容疑を認め、「関西一円でやった」と供述をしているという。  同署は、●●容疑者が以前住んでいた大阪府東大阪市の住宅からパンティーやブラジャーなど約800枚を押収した。約8畳の部屋で、下着をヒモにつるしたり、床に並べたりしていたという。 (産経ニュースより転載)

他人の性癖にケチをつけるほど野暮ではないが、この類いの犯罪は未だに理解し難い。もちろん、下着を愛好する行為自体を責めているのではない。押収量から考えると、犯人は通りがかりの家から無差別にパンツやブラを盗んでいたのだろう。素性の分からぬ女が着用した下着に囲まれたところで何か幸せか、と言いたいのだ。

 私もパンツを自慰行為に利用したことは数回、いや十数回あるが、すべて顔も名前も知っている女のモノだ。中でも印象深いのは、3年間同棲した彼女のパンツを使った時だろうか。

彼女は某有名電機メーカーに勤めるOLで、小柄ながらもスタイルが良く、タイトなスーツがよく似合っていた。学歴も高く、政治経済の知識も豊富で、英会話も堪能だった。

片や私は音楽とプロレスしか興味が無い典型的なエロ本編集者。端から見れば明らかに不釣り合いだっただろう。今思えば、別れは必然だったのかもしれない。

すれ違い。些細なことから始まる口論。私の職業に対する不信感。小さな亀裂はあっという間に大きくなり、もはや修復は不可能だった。

彼女がアパートを出て、実家に戻った夜。荷物を運送業者に託し、私達は玄関先で最後の言葉を交わした。「じゃあ元気で」「そっちも」。実に無味乾燥な会話だが、それ以上の言葉は見つからなかった。私は彼女の後ろ姿を目で追うこともなくアパートに戻り、家財道具が半分に減った部屋を見渡した。「ああ、せいせいしたぜ」と呟いてみたが、それが強がりであることは自分が一番よく分かっている。これで良かったのだろうか? 俺は間違っていない。本当か? 仕方無かったんだ。頭を掻きむしりながら部屋の中を歩き回ると、風呂場の脱衣カゴの中に、一枚のパンツを見つけた。CD一枚、本一冊すら残していかなかった彼女が、なぜか昨晩穿いていたパンツだけを忘れていったのだ。

レースが施された純白のパンツだった。一流企業の社員に相応しいデザインだ。そっとクロッチを広げてみると、ほんのりと黄色い染みが付着している。ブルセラショップで売られているオリモノがガビガビに付着したギャルのパンツがフィリピンかインドネシアあたりのハードコアパンクだとしたら、彼女のそれはソフトロックだろうか。ロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズのような。

すーーーーーーーーーーっ。

 

私はクロッチを鼻に押し当て、思い切り吸引した。 そこには紛れも無く彼女自身の匂いが染み込んでいた。  

目を瞑ると、数々の思い出が蘇った。西麻布のクラブで初めて出会った夜。デートはいつもぎこちなく、会話は途切れ途切れ。お互いにシャイだった。やがて初めてのキス。そして初めての朝。半年後には安い2Kのアパートに引っ越し、2人の生活が始まった。決して裕福ではないが、幸福な日々。幾度となく愛を確かめ合った。  

そんな甘酸っぱい記憶を喚起させながら、私は陰茎にパンツを巻き付け、激しく上下させた。 頭の中ではロジャー・ニコルズの『Don’t take your time』が鳴り響いている。

数分後、彼女がクロッチに残した淡い染みは、私の精液によって塗りつぶされた。 ああ、これで全て終わったんだ。そう思うと同時に、失ったものの大きさを痛感した。 私はやはり彼女を愛していたのだ。一枚のパンツが、改めて気付かせてくれたのだ。 パンツをただの布切れだと思う人もいれば、溢れんばかりのロマンチシズムを感じる人もいる。私はもちろん後者だ。

最後に、もう一つ記事を紹介する。

 

49歳小学教諭、下着盗み逮捕
兵庫・太子、現場の向かいに住む警部が追跡

民家の庭先から女性の下着を盗んだとして、兵庫県警たつの署は27日、窃盗容疑で同県太子町●●●小学校教諭、●●●●容疑者(49)=同県相生市矢野町=を現行犯逮捕した。(中略) 逮捕容疑は同日午前10時50分ごろ、同県たつの市内の女性教諭(29)方の庭先で、干してあった女性教諭の下着1点を盗んだとしている。  藤井容疑者は女性教諭の元同僚で、容疑を認めているという。同署で詳しい動機を調べている。 (産経ニュースより転載)

 

窃盗という行為自体はもちろん誉められたものではないが、私はこの犯人に何故か共感してしまう。 犯人は女性教諭に何年も恋心を抱いていたのだろう。自分の気持ちを上手く伝えられず、もしくは全く相手にされず、職員室の片隅で毎日歯痒い思いをしていたに違いない。その苛立ちが下着を盗むという行為に走らせたのだとしたら、それも一つの純愛だと私は思うのだ。  無差別に盗んだ下着に囲まれるより、たった一枚でも愛する女性の下着を手に入れたほうが、遥かに幸福ではないか。

男はロマンチストでなければならない。それは下着マニアであっても同じことだ。

「私の彼女が残していったのは、こんなパンツだった」

「私の彼女が残していったのは、こんなパンツだった」

住吉トラ象
元エロ本編集者。現在は派遣労働者。60~70年代のソウルミュージック、イイ女のパンツが好きです。座右の銘は「ニセモノでも質の高いものは、くだらない本物よりずっといい」(江戸アケミ)

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