2018-2019 大阪展準備前夜

 

 2018年11月。すでに機は熟した。
 世を忍ぶ作家を発掘するため、大阪展内イベント「第一回・声かけ賞」を企画する。
 声かけジャンルでの写真家の登竜門を用意することは、声かけ展のアート的立ち位置を底上げすることにもなろう。
 展出身の受賞作家が20年30年後にBIGになってアート界に爪痕を残す、そんな道筋を描いてみたい。

 さっそく公式サイトに募集を掲載する。

?第1回 声かけ賞?
大阪展に合わせ、みんなの声かけ写真を募集します。

昔声かけをしていて、作品を死蔵している方も、現在進行形で活動されている方も。

過去現在を問わず、
「大人が子供に声をかけて知り合い、仲良くなった風景」
を見せてください。

 賞金を設けると、アンチが嫌儲的な反応をするのは予想できる。ワタシも嫌儲の気持ちはわかる。予想できるし、面白味もない。
 クラファンも未達なので賞は名誉だけにし、カネモクではないことをアピール。

 しかしこの募集がのちにアンチを興奮させることになる。展の根本精神を反映した応募規定はこうだ。

・こども(学齢期以下の人物)に声をかけて、承諾を得て撮影した、未発表の写真作品。
・応募者が撮影し、著作権を所有する作品であること。
・撮影年・時期、撮影状況エピソードを必ず添えること。
・撮影は被写体に声をかけ、本人の同意を得たものにかぎる。親権は同意を意味しない。

 募集から半月後、公式サイト(koekakephoto.strikingly.com)が接続不能となった。今でもアクセスすると「このウェブサイトは工事中です。」と出る。
 何も規約違反をしていないのに凍結されるのは今まで通りのパターンだ。

 もともとこのサイトは第一回東京展の告知の際、キャンペーン的にシングルページサイトが必要ということで無料ホスティングのStrikinglyに立ち上げたもの。
 その後のクラウドファンディングがプラットフォームへの凸で潰されるのだから、公式サイトも同じ攻撃手法で潰されて不思議はない。
 東京展以後に声かけ賞をやったり次回予告をするなら、自前の持続的なサイトを構築してリニューアル移行するべきだった。

 とはいえ公式サイトが潰されることは器具田研としても当然織り込み済みで、魚拓は取得済み。
 そしてアンチ側もまた、魚拓を取っていた。
 おまえら潰したいのか潰したくないのかどっちなんだ?

 この時期、草の根署名サイトChange.org に展の反対署名が立ち上がっている。
 曰く、「『保護者に無断で』『女児の写真を展示・販売』する声かけ写真展の廃止を!」とのことだ。
 この文言は賞の応募規定を受けて悪意をこじらせたものと読める。
 親権をカサに子供を見世物にする搾取はワタシが最も忌み嫌うもののひとつだ。保護者に無断で、という言葉に子供の管理支配の強い意思がにじむ。
 だいたいそんな親に支配された子供、普通にかわいそう。

 その反対署名とやらは主催である器具田研に向けられず、開催予定地である大阪府の知事に向けられた。
 知事も気の毒なことだ。
 反対署名は知事に無視され、2年後の2020年11月に成果なしとして終了宣言を出した。
 つまりアンチ側は勝手に踊り、勝手に敗北した。

 ワタシは時期的に、この署名運動で興奮したアンチ勢がStrikinglyに凸したと見るのが妥当と考えている。

 話を戻そう。
 公式サイトの凍結をうけて、展を面白半分にウォッチしていたwebエンジニア界隈からもこれはひどい、と加勢があった。
「まずドメイン抑えた方がいいですよ。.comは他社に取られてるけど.netとかは空いてます。というかもう確保しましたので使ってください」

 koekakeドメインか……。
 .comはたしか職人の手配をするマッチングサイトだった(現在は閉鎖)。他にkoekakeドメインを使いたいという需要は考えにくい。むしろウチではなく声かけサポート運動とかの公共事業体が使ってくれれば「声かけ」という言葉の本来イメージが復興するんだが。使わんのか。
 しかしアンチがドメインを先取し、展のイメージ悪化広報サイトに使ったとしたら? それを抑える必要はたしかにあるな。バズったオタク用語をオタク向け企業がトロール防止のために登録商標するのと同じ。固定費負担になるしめんどくせえ!

 koekake.netはこうして展シンパから受動的に取得された。ドメインで受けたリクエストはとりあえず魚拓へ振り向ける。
 もはやStrikinglyのような業者が提供するテンプレサービスには頼れない。
 人手不足のIT業界にあって、展シンパの技術者が残された魚拓から必要な情報をサルベージし、自前でブログサービスを構築した。再オープンできたのは翌月12月に入ってからであった。

 ちなみに公式の作品紹介サイトとしては東京展始動時からdeviantART(略称dA。kiguda.deviantart.com)にもアカウントがある。dAは既定ジャンルに「子供の写真」があり、展アカウント以外にもアメリカ人の声かけない少女スナップ写真などを見ることができる。

***

本文中でもいくつか触れているが、ここで可燃性のある現代アートを実践する際、知っておくべきインフラサービスやプラットフォーマーの凸耐性とコスパをまとめてみた。凸回避の参考にしてほしい。展の凸をプロレス勝負と解釈し、利用価値があれば勝ち・利用できなければ負けとした。一般にアートの規模が大きくなれば利用できるサービス業者は少なくなり、自製化・内製化する必要が出てくる。サービス業者の利用規約に具体的に違反しなくとも、万能条項「その他当社が不適切と判断したもの」があれば凸で簡単に発動、アカウント凍結に至る。凸は企業の社会的責任をハックする行為。そのハックを見抜き、ユーザーを守る気概こそ企業の信用につながるはず。凸リテラシーの高い企業を使おう。

***

 2019年4月。
 関西在住のトモヨシ氏、ウツボ氏の協力のもと、大阪未経験のワタシが梅田に降り立つ。
 ネットでは2016年夏に会場を下調べしている。
 今度は凸妨害対策が前提となったため、1週間から10日程度の現地下見キャンプを張ることにした。
 これは器具田研が自営だからできたことで、勤め人では厳しいだろう。遠くの地で展示企画するアーティストは各位試行錯誤するところだ。

 ワタシはウツボ氏宅に寝泊まりさせてもらって、ネットで調べた画廊を個別訪問する。
 観客側から観に来やすい周辺環境かどうか、電車の間隔も調べる。
 あえて有名画廊に飛び込んでみて、声かけ写真展の名を出す。当然のごとく断られてから「この内容でできそうな他のハコを知らないか?」と紹介数珠つなぎで聞いてみる。理解のありそうなサブカルショップにも挨拶回りをして、フライヤー置き場をチェック。こうして現地住民の空気感をつかむのだ。

 知見として東京のハコは入場料有料の展覧会は珍しくないが、大阪人は抵抗があるそうだ。
 ハコ側も入場料を取る展示というだけで断ってきたところがあった。無料入場・作品有料販売のスタイルに誇りを持っているとのこと。そこの店員は「大阪人はコスパに敏感で良いものにしか金を出さない」とも言っていたけど、それはまあどの地域もそうなんじゃないですかと思った。

 グーグル検索で出てこない、地元の知る人ぞ知る的なレンタルスペースもアンチの裏をかくために有用だ。ハコの知名度はむしろ低い方がいいのかもしれない。

 隠れたハコを知らない街で見つけるためには、Uber Eatsが良い。
 配達員に登録し、レンタサイクルを借り、店から住宅へランダムに大阪中を振り回してもらうのだ。配達報酬が滞在費の足しになるというメリットもある。
 折しも桜開花シーズン。花見スポットにピザを配達などしながらキタからミナミ、ドヤ街、売春料亭街までを見て回り、貸しスペースの貼り紙をチェックした。

 比較検討した結果、梅田駅の北5kmほどに位置する貸しボルダリング場「ボルダリングロッジ三国」に決定。
 その名の通り、壁登りするスポーツの施設だ。
 外観は民家で、内部の壁がボルダリング用に改装されている。古民家をリノベしてレンタルする、イマドキのシェアリングビジネスらしい。

 軒先に駄菓子を置けば、大阪展の想定コンセプト、放課後感は演出できそうだ。

 ホームページがFacebookのみ、貸出申し込みはネットで完結。
 壁登り以外でも会合など可能とあり、写真展のために貸してほしい、と申し込みをすると「管理人が芸術などに理解があるので、予算のご相談はしていただけると思います」と返ってきた。
 アート利用者には値下げで応援してくれる、ということか。

 「内覧はいつでも可能です」と利用規約のリンクが送信されてきた。
 現地は無人。内覧用のパスワードが発行され、内覧後借りるなら申し込みを送信してくれ、料金支払いはここ、とクラウド化、省人化、定型化された取引が進む。

 アートギャラリーではないため、作品審査の概念がもともと存在しない。単に場所を貸すだけ。それ以外のやりとりが排除されている。電話で話すこともなく、現地も無人。
 もし凸が来たらどうなる? というこちらのイレギュラーな質問もしにくいし、逆に無人なら電話で凸されることもないとも言える。
 ヤブヘビにならないよう黙っていればいいのか? と思っていたら
「管理人の1人が展示会に興味を持っているのですが、もし宜しければ何か参考になるHPやチラシなどをご共有頂けないでしょうか?^_^」
 とメールが来た。
 dAと公式サイトのリンクを返す。公式サイトには、今までの流れで凸妨害に抗議する旨のメッセージも表示してある。
 即日返事。
「早速のお振込みありがとうございます。資料も拝見させていただきます。ありがとうございます!」
 これが4月14日の話だ。開催日を3ヶ月後の7月とし、契約確定させる。
 その後ボルダリングからは何も連絡がなかった。展示内容も凸事情も知らなかったとは言わせない。
 
 大阪から東京に戻ったワタシは、フライヤーと解説小冊子の制作に入った。
 東京展の雰囲気再現を目指し、イラストバージョンと実写バージョンのポストカード。キービジュアルイラスト担当にてくのてぃっしゅ氏を起用。架空女児風タッチでオーダーし、これは解説小冊子の表紙にもなった。

 

 大阪で展をやるやると言い続けて2年。待たせたぶん、日本中からファンが集結するはずだ。
 しかし凸妨害を企むツイフェミやネット弁慶もいる。やつらもまた、妨害をするために開催を心待ちにしている。
 ならばネット以外で告知をすればよい。奴らはネットしか見ていない。
 ふだんからアートに縁のある生活をしていれば、ネット以外で展を知ることくらいできるはずだ。オンラインからオフライン、そしてオンラインへ。O2Oである。

 2019年5月。
 下見キャンプで訪れたギャラリー、サブカルレンタルスペース、ゲストハウス、ギーク系シェアハウス、オルタナティブ系書店、写真DPEショップ。美大その他有名大学キャンパス、大阪以外にも京都、名古屋、東京、九州。展シンパ勢によって会場と日程の書かれたフライヤーが配布された。アーティスト人脈にも郵送で拡散。
 大阪展フライヤー配布数は東京展の3倍に達した。

 配布された一部のポストカードには「ネットには情報を流さないでください」と手書きされたものがあり、レアアイテムとなっている。
 フライヤーを委託されてから展の詳細を知り、これは配布できないと送り返してきたショップもあった。リアル側での差別も見える。


 

 このころ公式サイトではクラファンの数字が開催確定まであと20万円くらいだったはずで、7月の開催確定は見切り発車、赤字覚悟である。
 オンラインでは募金を呼びかけ、リアル店舗ではフライヤーを受け取った人限定で集客を呼びかけていた。

 さてツイッターで「声かけ写真展」または類似ワードで検索をすると、大量のアンチの中に、展に言及したほとんどのツイートにいいねをし、関係者と見るとそのアカウントに、またそのアカウントの相互フォロワーに対し探りのメンションを飛ばす不気味なアカウントが散見される。

 どうやら、展の開催情報を得るのと倫理を問うのが目的らしい。

 その熱心さ、粘着度は常軌を逸し、何らかの精神障害による症状ではないかとシンパ内で警戒が高まった。共通するのはその粘着性に加え、展が条例や法律に違反しているという妄想から行政や弁護士へのコンタクトをアピールしていること。展に熱狂するという意味では大ファンなので、そのような迷惑者を括弧付きの「大ファン」とする。

 その「大ファン」たちは、このあと懸念どおりに大迷惑をやらかしてくれる。その知見はまた次回に。

器具田こする教授
ラブドールとオナホールのR&Dアートユニット「器具田研究所」を運営。メーカーへのアドバイスや技術協力といった説明のしにくい業務でオナニー業界の異常進化を支えている。http://www.kiguda.net/

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